ロゴはいらない。 引き算で考える東京オリンピック。 沼畑直樹

ロゴはいらない。 引き算で考える東京オリンピック。 沼畑直樹

夜、部屋の光を壁にあてるフロアライトにして、何もないテーブルの上でしっとりお茶を飲む。

京都・俵屋旅館の映像を観たあとだから、余計に和風ミニマリズム感がぐっとくる。

「ミニマリズム」という言葉はカタカナで、和風という日本語と合わせるのは具合が悪いが、ミニマリズムをカルチャーとして捉える場合の的確な言葉を知らない。では、京都発祥の日本風なミニマリズム文化は、いったいどこから来て、どう呼ばれていたのか。

調べてみると、「引き算の文化」という言い方が出てくる。

 

これは主に茶道、華道、枯山水などで使われるが、増やしていくよりも減らしていくという方法で美を表現するのだから、まさに最小限を目指すミニマル主義と言っていい。

何もないテーブルに花瓶があり、枯れた枝ひとさしで「美」なのだから、本当に素晴らしいというか、感動的だ。

引き算文化でいいのなら、美はいつもの生活で表現できる。誰だって出来るのだ。

誰だって出来るとなると、文化はぐっと成熟してくる。

でも、誰でもできるなら、デザイナーの仕事がなくなってしまう。

特にグラフィックデザイン。これは引き算が合う。

だからいつか消滅する可能性は高い。

引き算文化、ミニマリズムが多くの人の生活にひろまったとき、デザイナー不要でも世の中には素敵なものが増えていく。

それは、スマホが多くの人にひろまって、フォトグラファーが消え去るのと同じだ。

だからといって、デザイナーもフォトグラファーもじたばたしてはいけない。

これは良いことだから。

 

もともと、世界中にデザイナーは少なかった。

特にロゴデザインといった面で。

なぜかというと、主張しすぎることを良しとしなかったからだ。

たとえばフォントが少なかった昔から、パリの街並みにはカフェがあり、似たようなシェードがあり、同じようなフォントで名前が書かれていた。

他の店との違いは、シェードの色と店の名前だけだ。

すべてにロゴがあるわけでもなく、シェード部分に主張はそれほどない。

そして、それが素敵なので、オーナーもお客も良しとしている。

街の風景と見たときに、引き算されていて美しいのだ。

 

今は、いろいろと主張しようとしている。

売り上げが大事だから、目立ったり、インパクトがないといけない。

足し算しないと、仕事にならない。

店の看板デザインを引き算して、売り上げになるのか! となる。

それでデザイナーに発注するわけだから、実力も出そうとして、足し算は加速する。

ロゴもあって、当たり前。

なのに最近はグラフィック的なミニマルも目指すので、ややこしい。

 

 

そんなカオスな今が残念なので、今が未来だとして、ミニマリズム的にロゴなどで主張をしない世の中を想像してみる。

だとすると、未来西暦3045年の東京オリンピックは、誰でも使えるフォントで東京オリンピック3045もしくはTOKYO 3045でいい。

ロゴはない。

あっても日の丸の赤い罫線くらい。そう、あってもいいのだ。誰でも思いつく、シンプルなものなら。

でもシンプルすぎて、他でも同じように使われているわけだから、そこでコピーだどうのと騒がない。

最小限主義の利点は、一度最小限(ロゴをなくす)と考えて、そこから最小限のほどよきところを見極めるところだ。

一度極端にロゴをなくすと考えてみると、なくてもいいし、あってもいいしとなる。

 

そして、コンペとかもしない。

もう今後日本でオリンピックがあるたびに、同じものにする。

西暦部分の数字と都市名が変わるだけでいい。

大事なのは、あくまで選手たちの躍動と、観る者の記憶だ。

 

競技場は、四角い箱にしよう。

それだけ。コンペとかも当然しない。

選手が主役の建物にする。

 

人が作ったロゴやデザインに価値を置きすぎることを、まずやめる。

素晴らしいと、幻想を抱くのもやめる。

日本には引き算の文化を生んだ京都があり、華道や茶道を生んだ東山文化がある。

足し算を重ねた足利義満の北山文化に対して、黄金を拒否した義政の東山文化は未来に続いている。

もし未来、オリンピックだけではなく様々なことで東山文化、引き算の文化がベーシックになるなら、少し素敵だと思う。

 

 

 

 

Author Profile

沼畑 直樹
Numahata Naoki
最小限主義者 既婚ミニマリスト 
著作 『最小限主義。』(韓国版2017年5月発売)、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)。旅ガイド『スロウリィクロアチア』


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