引っ越しは楽しい ① 変わる「旅先」
佐々木典士

京都に引っ越してから早4ヶ月が経とうとしている。ぼくのは「引っ越し」という感じで「移住」というまじめさを持った感じじゃないけれど、実際に住んでみるといろいろとわかることがある。

引っ越し直前の東京の部屋。自分の原点でもある、床座ごはん再び。

 

かつての通勤路は、またすべて写真に収めた。相変わらず感傷的。

 

 

東京からの引っ越しは、沼畑さんの車のトランクに荷物を詰めて。

 

新居。窓が大きく、そこから見える自然が決め手となった。お家賃は東京の半分以下。

 

 

自然は東京よりも遙かに豊かになった。そんな環境にいると草花や生き物たちが驚くほど日々移り変わっていくことに気づく。

 

空が広いので、見上げる機会も多くなった。

 

このぼくがあろうことか、ベッドも、イスも2つもある部屋に住んでいる。

 

伸び縮みする最小限

 

これらはぼくの持ち物ではなく備え付けのもの。都会でモノが少ない生活をしていて、持ち物が少ないということは、誰かにお金を払ってもらってやってもらったり、誰かが持っていてくれるおかげだよなぁとも思うようにもなった。新しい部屋にあるベッドもイスも、誰かが持っていてくれるものだ。冷蔵庫や電子レンジも自分のものは手放し、人様が持っていてくれるものを使わせてもらっている。自分で所有しなくてもいい。だが持っていてくれる人に感謝を忘れないこと。

 

仕事を辞め、家にいる時間が増えたので、お茶やコーヒーを淹れたり、癒やしのためのものは増えた。
これからは田舎のスペースを活かし、自分でできることを増やそうとしているので、モノは増えていくと思う。だが自分にとっての最小限であることに変わりはない。最小限は伸び縮みするのだから。

 

裏世界へようこそ

京都には何回も来ていたけれど、やはり実際に住んでみると違う。(ぼくが住んでいるのはいわゆる京都らしい場所ではなく、はしっこの田舎です)。

 

たとえば駅名。今はアプリで、便利な乗り換え案内があるから、旅先で困ることはあまりない。その分、通り過ぎる駅名や地名はその場限りで特に覚える必要もなく忘れてしまう。住むとなると、もう少し地名や駅名に詳しくならないと不便だ。

 
東京には18年間住んでいて、地下鉄なんかに乗る度に路線図とにらめっこしていたものだ。東京の路線図は複雑で、ぼくは18年たってようやく全体像が把握できたかなという有様だった。当たり前だけど、それはもう使えない。

 

京都市は11の区に分かれているとか、四条と五条のどちらが北側にあるのかとか、左京区は東京で言うならサブカルな中央線だとか引っ越してきてはじめて知った。東京で「食べログ」に登録しているお店は何百軒もあったが、ここではほぼゼロからのスタート。何もかもが新鮮だった。例えるならば、ドラクエⅢで裏世界に来たような感覚。面倒くささもあるだろうが、ぼくにとっては発見の喜びのほうが大きかった。

 

今までは実家の香川県と、東京にしか住んだことがなく、少しもったいないことをしたような気もする。日本人の引っ越しの平均は4,5回程度で、アメリカ人は10〜15回とか聞いたことがある。移動を続けることが善でもないだろうが、もう少しいろんなところに「行く」だけじゃなく「住んで」みたい。お陰様の身軽さで、引っ越しはしやすい。

驚くほどのスピードで馴染む

京都は、京都という土地ではなくこの家に惹かれて住んだのだけど、関西にも住んでみたいと思ったのもあった。当たり前だけど、店員さんがすべて関西のイントネーションなことに衝撃を受けた。その他に驚いたのは、宅配便の方がぐいぐい来るところ。「今います? これから行っていいっすか?」とかよく電話がかかってきたりする(笑)。なんだか気持ちがいい。
自分でも、ちょっと東京に冷たすぎないかと思うほど京都にはすぐに慣れた。エスカレーターの左を開けるのが当たり前になった。(今は東京にもよく行っているので、どちらを開けるべきかよくわからなくなる。京都駅では左右どっちもあるみたい)。あんなに長い間東京に住んでいたのに、いざ東京へ行くとなると人混みに紛れたりビルが怖くなったりもした。

 

引っ越して1ヶ月もしないうちに、京都タワーを見ると「ただいま」と思うように。

 

引っ越しで変わる「旅先」

引っ越して面白いのは、住む場所だけでなく旅する場所もまた変わるということ。
ニューヨークに移住した友人と話していると、プエルトリコなど中米によく行くようになったとのこと。日本からプエルトリコやキューバなんてハードルが高いが、確かにアメリカからすると近い……。ぼくも当たり前だけど、関西にはとても行きやすくなった。

 

嵐山。外国からのお客様を、自信を持ってもてなせる場所があるというのは嬉しい。

 

大阪の日本橋の高架下。DIYストアやブルックリンのコーヒーショップなどがあり、ヒップなエリアになっている様子。プロ御用達の工具が売っている電気街を興味津々で見学。

 

神戸。中華街近辺は古いビルのリノベをしたショップがたくさんあって、散策が楽しい。神戸が横浜に似ているのか。横浜が神戸に似ているのか?

 

和歌山のゲストハウス「RICO」は3度め。オープンなリビングが今の季節に本当に気持ちがいい。

 

ニューヨークの人がリスをありがたがっていないのと同じく、奈良の鹿もわりとすぐ当たり前に(笑)。

 

名古屋も近くなった。電気を学びたいので「でんきの科学館」へ!

 

そして東京も住んでいた場所から、旅をする場所へと変わっていったのだった。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。