ミニマリズムなワインとは
沼畑直樹

ミニマリズムなワインとは何だろう。 あらゆる面でシンプルを極めたワイン…。 混じりけのない、飾りすぎない質素な味わい。 そんなワインはあるのだろうか…。 といっても、そもそもワインは比較的ミニマムな世界だ。   品種を一つに絞り(もちろんボルドーのように混ぜることもある)、産地やワイナリーがはっきりしていることが多い。

 

コーヒーに比べればだいぶ、そういったサブジェクトが重要になっていて、造る側にも飲む側にも、品種や製法にこだわる歴史がある。

 

「ワイン通」や「ソムリエ」に極東の私たちが憧れの気持ちを抱くのは、そういったカタカナの品種や産地は、ほとんど知らない世界だからだ。

 

私たちが知っているのは、フランスの場所とイタリアの場所、チリの場所とカルフォルニアの場所。あとはスペインの場所だ。

 

それが内部の地域名となると、わからない。 ボルドーという名前はワインを通じてよく知っていても、実際に地図上でどこにあり、どういった風景なのか。 歴史好きならブルターニュはブリトン人が住み着いた地域だから、場所はなんとなくわかる。でも、タをゴに変えたブルゴーニュが歴史に出てくることはあまりなく、パリの南側にあることも知る人は少ない。

 

結局私たちが「わかる」のは、日本酒や焼酎といった日本産のもの。 お米は兵庫で、山田錦で云々…。 そこは外国人には負けられない。

 

日本酒好きな人は知っている。品種や産地がわかると、味だけを比べるのではなく、品種、酵母、酒造屋さんの組み合わせで出来る奇跡が感じられて楽しいのだ。

 

 

フランスの人もそうだ。ブルゴーニュのワインといえば、その地域の豊かなワイン畑を思い浮かべることができる。 旅でシャトーを訪れる人も多いだろう。   そうなると、よっぽどの旅好きでない限り、やはりワインは日本人には敷居が高いのか…と落胆しそうだが、そうではない。

 

日本のワインを楽しみに、連休を利用して行ってきた。 山梨、甲州のワインだ。まず、初日は勝沼にあるぶどうの丘のワインカーブ(地下ワイン貯蔵庫)での試飲を楽しんだ。 全部を試すわけにはいかないので、白の極甘フルーティワインを攻めた。

 

一番気に入ったのは、デラウェアだ。 ワイン用ではなく、食べるあのデラウェアを使ったワインで、そのままいつものブドウの味がする。 美味しいのか美味しくないのかよくわからない味ではなく、ジュースとしてはっきり美味しい。 すごく甘い。

 

フルーティ系を飲み続けると、辛口があまり楽しめなくなる。 アルコールの味が強く感じられるのだ。 食事に合う、合わないはあるかもしれないが、個人的に甘いフルーティな白ワインは美味しいと思う。 ローマ人が飲んでいたワインはこんな感じだったのではないかと思うこともある。 すっかりデラウェアに魅せられてしまった。

 

その日はその宿泊施設に泊まり、翌日、塩山駅に近い甲斐ワイナリーに移動して、併設されているカフェ古壺(coco)で、オリジナルのデラウェアワイン「古壺」をグラスでいただいた。 ぶどうの丘で飲んだデラウェアの味はまだ覚えている。

 

小さなグラスに入ったデラウェアは、少しだけオリが見える。 味は、ぶどうの丘で飲んだ極甘に比べると少し甘さ控えめだった(辛口と書いてあるが、甘い)。 そのバランスは、勝沼・塩山の旅での「衝撃」だった。

 

高級なワイン品種を使わず、小さな甲斐ワイナリーで造られた年間500本ほどの限定発売。 「甘さのバランス」という判断から言うと、本当に申し分ない。 また、オリが見えたのは、無濾過で熱処理を施してないから。 熱処理を少しでもすると、味が変わってしまうのは毎年の日本酒造り取材で体感したことだ。

流通しているワインは当然、きれいに濾過され、熱処理され、酸化防止剤で腐らないようにしている。 だから古壺は、封を開けなくても3ヶ月間ほどしかもたず、そのワインだけネット販売はしていない。 店でしか買えないのだ。

 

古壺は産地も心配することはない。山梨県産デラウェア100パーセントだ。 山梨のワインは品種がほぼ山梨のものだから、本当に心配がいらない。 ボルドーでもブルゴーニュでもなく、甲州産だ。

 

今日は吉祥寺の店でデラウェアワインがあったので、気になって試飲してみた。 酒折ワイナリーのデラウェア。 非常に美味しかった。 どちらが美味しいかという比べ方ではなく、それぞれ特長があって素敵だ。

 

とりあえず、しばらくは古壺の絶妙な味わいを楽しみたい。 100パーセント甲州産のデラウェアで、熱処理も濾過もしていないワイン。

 

ミニマリズムなワインは、世界中の人、それぞれ違う。

 

自分にとっては、塩山までかいじで1時間の距離にある甲斐ワイナリーのそれが、自分にとってのミニマリズムでわかりやすいワインだ。     http://coco.kaiwinery.com 

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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