半径5mからの環境学
「ごみ問題について京大の浅利先生に聞く」
佐々木典士

ミニマリストとして少ないモノで生活していると、自分が使っているモノがどこから来て、どこへ行くのかより意識するようになり環境にも関心を持つようになりました。環境のために、まず身の回りのことから何ができるのか? 初心者のぼくがさまざまな専門家に話を伺っていく連載がはじまります。初回はごみ問題の専門家、浅利先生に京都大学にてお話を聞きました。

初出:「むすび」2018年1月号(正食協会)

今月のゲスト 浅利美鈴(あさり みすず)さん

京都大学大学院地球環境学堂 准教授。びっくりエコ発電所理事。3R・低炭素社会検定事務局長。ごみの循環・廃棄のシステム構築、消費者行動のモデル化を研究。『ごみゼロ大作戦! めざせ! Rの達人』(ポプラ社)監修など。

 

有料化でごみは減ってきた

 

──モノを減らしていくと不思議と「これ以上捨てたくない」と思うようになりました。環境に関心を持ったきっかけとも言えるのがごみの問題だったので、第1回にお話をぜひお聞きしたいと思ったんです。日本のごみは今どういう状況にあるんでしょうか?

 

「日本ではごみ(一般廃棄物)の量は2000年がピークで、そこから減ってきています。(2015年のごみ総排出量は4398万トン。1人の1日あたりのごみの量は939グラム)たとえば京都でもそのピーク時から半減する目標を立てていて、今は49%まで削減できていますね」

 

──たとえば出版でも、音楽業界でも流通量のピークは90年代の後半にあって、単純に不況でモノがまわらなくなったからごみが減っているというのもありますか?

 

「確かに長年のごみの調査の結果を見ると、たとえばダイレクトメールやチラシなどの印刷物で確実に減っているものもあります。ですが、大きな要因はごみの有料化ですね。有料化で分別やリサイクルの意識が高まったということがあげられると思います」

 

大学内には、不要な品を格安で譲ってもらえるという部屋も。ぼくも環境問題に関する本を格安でゲット!!

 

リサイクルが難しい島嶼国

 

──確かに、資源ごみなんかを捨てるのにもお金がかかるというのは、今では当たり前のような認識ですね。40年前の日本の川がごみで埋もれていたり、洗剤の泡で埋まっていたりしていた写真をTEDのプレゼンでも使われていますね。

 

「たとえばタイやベトナムなどの途上国を含む世界各国と比べても、日本の一人あたりのごみは比較的少ないんです。サモアやソロモンなどの島嶼国でもごみの問題に取り組んでいますが、そういうところのほうが深刻で、たとえば1つの島が何万人しかいないという規模なのでリサイクル産業が成立しないんです。でも、中国からは安いモノが入ってくるし、日本の中古車だってバンバン入ってくる。買うモノはあるけど処分するところがない。だからポイ捨てされているという状況があって」

 

──日本はおもてなし文化や潔癖なところもあって、過剰な包装がされていたり無駄が多いんじゃないかと思っていたんですが、ごみ問題はそもそも日本だけの問題ではないですもんね。

 

「そういう国でも、日本も昔は同じだったからと励ましているんですけど、都市の規模とか税金の仕組み、文化的なところで難しい部分もあります。ごみの分別を子どもにやらせてみても、雑草を抜いてくる子どもがいたり、何がごみなのかもわかっていなかったりするんです」

 

──なるほど、そういうお話を聞くと、街中にもごみは少ないですし、最低限のごみ・リテラシーのようなものは日本にはあるかもしれませんね。一方で、日本が見習うべき取り組みをやっている国なんかはあるんでしょうか?

 

「たとえば台湾はEPR(拡大生産者責任。家電リサイクル法など、生産するだけでなく回収や処理まで責任を負う)については政府がリーダーシップを発揮して徹底的に取り組んでいます」

 

大学内の日当たりの良い場所で育てられる植物。植物を育ててみることも、自然の仕組みに目を向ける第一歩。大学内で豚を飼おうとしたこともあるとか。

 

期限切れ食品を扱うスーパー

 

──環境先進国のイメージがある、ドイツや北欧なんかはどうなんでしょう?

 

「EUはたとえば都市ごみの再資源化率を65%に、包装廃棄物の再資源化率を75%にするという目標を立てて、今はヨーロッパ中で盛り上がっていますね。それを達成できるかどうかはわからないですが、そういうわかりやすい見せ方だけでも日本も見習うべきところがあると思います。あとは取り組みのバラエティが豊富ですね。たとえば、今は食品ロスの問題が話題になっていますが、ドイツにも期限切れの食品を売っているスーパーがあったり。日本の場合だと「それでお腹壊したらどうなるんだ?」と足かせになるんですけど、そこは自己責任でやりましょうと、自由な取り組みがやりやすいんだと思います」

 

処分場で衝撃を受ける学生

 

──環境教育についてもご専門ですが、サステナビリティの象徴としての「ぬか漬けチャレンジ」などおもしろい取り組みをされていますね。

 

「私が大学に入学した20年前は、京都議定書が採択される頃でもあったりして環境問題に対する意識がとても高くて、私自身も「環境問題を解決したい!」と思って大学に入ったんですが、そういう意識は今少し薄れているのかなと思いますね」

 

ぬか漬けチャレンジ。ほとんどの学生にとっては、はじめてぬか漬けをかき混ぜる体験になるのだとか。今までに200人以上の人が混ぜたというぬか漬け!!

 

女優さんやサッカー選手、舞妓さんまで体験したというぬか漬けチャレンジ、京都市長(中央)も体験されました。

 

──ぼくが今住んでいるところには、自由にできる庭があるので、生ごみを置いてみたりするんです。するとまず鳥が食べて、虫が食べて、微生物に分解されてキレイに何もなくなる。一方で、どこからか飛んできたビニール袋はずっと残っていたりして。もともとはこうだったんだよなぁと。そういう風に実感する機会は大事だと思うんです。

 

「そうですね。ごみの処理場も学生と行くんですが、行くと衝撃を受けますよ。これだけ出ているものなんだということが、実感としてわかります」

 

──買って、捨てて終わりではなく、モノがどういう風に処理されているかまで想像する。とりあえず行動の第一歩として、ぼくも処理場の見学に行ってみます!

 

「ごみ問題のいいところは目に見えるところですね。CO2ではこうは行きませんが、がんばれば目に見えて減るものでもあるので、環境への入り口としてはおもしろいと思います」

浅利先生よりおすすめの1冊

『地球家族』(TOTO出版)

「申し訳ありませんが、家の中の物を全部、家の前に出して写真を撮らせてください」と世界30カ国で、持ち物を撮影していった本。驚くほど少ないモノだけで生活している人々を見ると、自分の暮らしを考えさせられます。この本は「ぼくたちに、もうモノは必要ない。」の参考書籍でもありました。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。