好きなものは忘れていく。   沼畑直樹

好きなものは忘れていく。

上書きされていくのだ。

NYと『メリー・ポピンズ』、つまり西洋が好きでも、そのうち日本の旅館に夢中になったりする。 ヨーロッパ・サッカーが好きでも、そのうち車に夢中になったりする。

そうして、夢中になった古い心は放置されていく。

この1年を振り返ってみると、やはりいろいろと変わった。

 

11月(2014年)にクロアチアから帰ってきてから、ミニマリズムとして部屋の掃除に没頭した。

同時に、きれいになった部屋でコーヒーを淹れることに夢中になる。

そして、それはお茶に繋がっていった。

『茶の本』のような世界観、日本が本来持つ「茶道」の美意識から、「枯淡」という色の味わいまでが、私の心を満たすものだった。

「質素・倹約」というテーマは若い頃から常に惹かれるテーマであり、わびてさびて、慎ましやかに生きるというのは私のミニマリズムのコアになっている… はずだった。

夏の終わりから秋にかけて、15年振りになる車の購入と、クロアチアの長い旅が重なった。 ここで車と西陽に夢中になり、気がつくと「枯淡」は心から消え去っていた。   正月が近づいている。

寒さも感じられる。

すると、我が家では「杉本家」のドキュメントを観る。

恐らく寒いであろう大きく古い長屋で、家訓としての「質素・倹約」を守り続ける暮らしを観てほっとするのだ。 何度も観ているうちに、3代目当主(江戸時代の人)が書き残した「質素・倹約に生きよ」というメッセージが再び心に届いた。

キンドルに残っている、茶関係の本を再ダウンロードする。

そこには、「枯淡」のいろいろがある。

最近、完全に忘れていた世界。

好きだった「枯淡」と「ミニマリズム」の世界観を、私は忘れていたことにも、まったく気づかなかった。

その週末、白金の畠山記念館に行った。 茶道に関する歴史的な茶道具が展示されているそこで、抹茶をいただいた。

そして『茶の本』をまた読んでいる。   部屋をまた綺麗にして、誰かのためにお茶を淹れよう。 そう思った。

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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