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エンプティ・スペース 012
陰翳 
沼畑直樹
Empty Space Naoki Numahata

2018年8月30日

建て売りの新築を買ったので、リノベーションした前の家のような個性はもうない。

白の壁紙は正直、面白みはない。

ミニマリズムといって満足できたのも、前の家は壁をペンキで白く塗り、煉瓦を貼ったりしていて個性があったから。

壁紙の白い壁は味家なく、グレーの壁紙に変えたいと思うが、買ったばかりなのでそれはもっと先のことにする。

最近は新築でもパステル系の壁紙や、グレー系の壁紙を貼っている家もあるし、マンションなどでも目立ってきた。

注文住宅ならやはり壁は何かしら美しく仕上がっているし、何も置かなくても壁がアート的な主張をしてくれるだろう。

今の家の壁紙に味わいをもたらすには、額縁系のものを飾るしかない。

グレーもしくはパステルカラーでただ塗られたキャンバス。

もしくは、額縁だけで中がないもの。

さてどうしようかと考えていると、夕方になり陽が射し込んできた。

一階から廊下を見上げると、西日が壁を明るく照らしている。

当たらないところは暗く、そのコントラストが目立つ。つまり、

陰影が美しい。

雑誌に出てくるような立派な注文住宅は圧倒的に素晴らしいが、影がもたらす陰影と暗さは、普通のどんな家にも映える。

ただの白い壁紙の家でも、陰影は感じ方次第だ。

北側の水場に行ってみると、小さな窓から光がかすかに伸びて、廊下の壁に陰影を作っている。

それが美しい。

普段、1階の南側の大きな窓のシャッターを開けると、光がさささっと入ってきて、部屋が突然明るくなる。

これが一般的な部屋の「いい状態」であり、シャッターを閉めると小さな窓からの光だけになって、暗い部屋になる。

でも、気持ちを陰翳礼賛に変えてみる。

すると、暗い部屋にわずかに入る弱い光が、美しく見えてくる。

これは、南の窓を開けて、部屋全体、すみずみまで明るくなったときには生まれない。

南東と南西に大きく窓があった吉祥寺の家でもなかなかない暗さだ。

暗くてどんよりして、気持ちが落ちてしまいそうな部屋の明るさのはずなのに、この暗さを讃えようと思っただけで変わってくる。

人の感覚はいかようにもできる。

刺激に慣れさせれば無感覚になっていくし、慣れさせなければ新鮮に感じるようになる。

ミニマルな空間に慣れれば、その良さに気づかなくなるし、マキシマムな空間に慣れれば、その乱雑さをなんとも思わなくなる。

刺激を追究して、どんどん良い物を求めていくのが電化製品やガジェットだが、いろいろなものを遮断させてから始まる出会いはどれも刺激的になる。

暗い部屋の陰影に何かを感じるのは、そういうことだ。

明るさだけを求めると、見えてこない美しい佇まい。

壁紙の前に、最小限の美しさが存在していたのだ。

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