野良猫は自殺しない  佐々木典士

残り物をあさり、あてもなく夜道をぶらつく。 そんな生き方をしていても、野良猫は自殺をしない。

 

自分を恥じることがないからだ。

 

公園の池でのんびり泳いでいる鴨は、資格を取ろうとか、保険に入ろうなどと考えない。

明日のことを、思いわずらわないからだ。

森に住むコヨーテは決して肥え太らない。

自分に必要な、獲物の量がわかっているからだ。

花に集うミツバチたちは、35年かけて自分の巣を作ったりしない。

自分たちが住むのに最適な住居がわかっているからだ。

 

なぜみな、動物のように賢く生きられなくなってしまったのか? 一歩外に出れば、本当にありとあらゆるものを通じて、脅迫的なメッセージがぼくたちに送られてくる。

できるだけお金を儲けましょう、より美しくスリムになりましょう、いい学校に入りましょう、快適な家に住みましょう、健康になりましょう、競争して勝ちましょう、もっとファッショナブルになりましょう、成長し拡大しましょう、いつか来る危険に備えましょう、さらに知識を蓄えましょう。

 

映画監督のトム・シャドヤックは著書『恐れと真実の対話』で、そんな状況をシンプルに喝破した。

 

「要するに“今のままの君じゃダメ”というわけだ」

 

今この一瞬を生きること。

足ることを知ること。

自分はすでに何者かである、と感じること。

自分自身であること。

 

いちどモノから離れてみる。

ぼくは自分自身に戻るための入口に、今立っている。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。