ミニマルなファッション、ハロウィンの仮装

今日はキャラクターが街にあふれるハロウィン。

 

毎年仮装をしている人が増えてきているような気がする。 去年までは、どちらかというと冷めた目で見ていたように思う。 というか、はしゃいだお祭り全般に対して、そんな目で見がちだ……。 地

 

下鉄の車内に乗り込むと、ディズニーの白雪姫の仮装をして、友人とおしゃべりしている女性がいた。ふっくらしていて、目も細く小さく、お世辞にも美しいとは言えないその女性。

 

ぼくが反射的に思ってしまった、率直な感想はこうだ。 「なんで全然似合ってない白雪姫をチョイスするかな? 自分をカン違いしてそうなこの人は、普段もイタイ人と思われてるんじゃ?」

 

しかし。 その女性はとても幸せそうに笑っていた。笑顔が印象的だった。

 

住む部屋のミニマリズムを意識するようになってから、 ぼくは外に出かける服もシンプルになっていった。 ジョブズやザッカーバークに象徴的な、シンプルでいつも同じ服。

 

彼らの発想は、服を選ぶ時間がもったいない。 服を選ぶその時間を、創造的な時間に充てたいということだったと思う。 シンプルを心がけていると、時間ができ、大事なことに集中できる。

 

シンプルなファッションにはそれ以外にも変わるものがある。 飽きのこないものを選んでいるから、自分が流行に遅れているかどうかが気にならなくなる。奇抜なファッションをしないから、自分に本当に似合っているかどうかが気にならなくなる。コーディネートが正しいかどうか、他人に判断におびえることもない。他人の高価な服をうらやましく思ったり、安価な服を着ている自分を恥じたりしなくなる。

 

つまりは他人の目線を気にしなくなる。

 

シンプルにしていくことでぼくは、他人が自分に対して、何を感じているのか、あまり気にしないようになれたと思う。 「恥ずかしいやつだと思われてないだろうか?」「自分はどう評価されているだろうか?」 ただ街を歩いているだけでも、以前のぼくははっきり言って自意識過剰だったと思う。

 

他人の「思惑」は、自分が勝手に想像するしかできない。 どこまで突き詰めても、他人が本当に考えていることを確かめることはできない。

 

「なんで白雪姫のチョイス? 普段もまわりからイタイ人だと思われているのでは?」 と余計なお世話にもぼくが思ったことを、白雪姫は確かめることもできないし、そもそもそんなことを想像しても、気にかけてもいないように見えた。ぼくの目線などどうでもいいのだ。

 

反射的に思ってしまった感想の次に思ったこと。 他人の目線を気にしてなく、幸せそうに笑う彼女は、とても魅力的に写った。

 

幸せは人に伝染する。 幸せな人の「幸せ」は家族に、友人に伝染する。ここまでは想像しやすいことだ。 幸せな家族や友人に影響を受けて、自分も幸せを感じられるのだ。 しかし「幸せ」は会ったこともないひと、たとえば友人の友人にまで影響があることが 研究によって示されている。

 

「(白雪姫の)彼女は、まわりからイタイ人と思われているわけでもなく、持ち前の明るさと笑顔でまわりを、友人の友人までも幸せにしている人なのかもしれない」 そう思うと、最初の自分の印象が恥ずかしくなった。

 

電車に乗っていた時間はわずかだった。 ぼくが感じた、最初の否定的な印象が、好感に変わっていったこと。 ぼくという他人の「思惑の変化」も、彼女は知る由もない。 確かめることもできず、証明することもできない他人の「思惑」、他人の「目線」は結局、自分が作り出しているものだ。

 

ミニマルにしていくと、焦点が他人から自分に切り替わっていく。 どう思われているかよりも、自分がどう感じているかが大事になっていく。

 

ミニマリズムは目的ではなく、ますます「手段」だと思うようになった。 ミニマルにすることが大事なのではなく、ミニマルにしていくなかで、気づけたものが大事なのだと思っている。 白雪姫のファッションは、それこそミニマルとは正反対のものだ。 ただその在り方には、ぼくがミニマルにしていくなかで気づけたものがある。

 

他人の目線を気にもかけていなく、自分が笑顔で心底楽しんでいる。 いや、もしかしたら他人を喜ばせようとして、勇気を出して白雪姫にのぞんだのかもしれない。そして今、ハロウィンで仲間と仮装するという幸せな瞬間を感じ、味わっているように見える。

 

すべては想像だ。

彼女の本当の「思惑」もわからないのだから。

 

ただ言えるのは、こんな想像は、以前のぼくにはできなかったということだ。

 

恥ずかしさが勝って、仮装はしたことがないけれど、 来年あたり、ハロウィンに参加してみるのもいいのかもしれない。 とりあえず、仲のいい友人と少人数のパーティーからでも。 もちろん、衣装はレンタルで。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。