部屋から月を眺めるために。     沼畑直樹

15日の夕方、駐車場帰りに歩いていると、南西の空に細い細い繊月(せんげつ)が見えた。

まだ空は明るくて、ちょうど富士山方面に雲がほどよくある。

富士山は逆光にもかかわらず積雪がはっきりと見えた。

相当、空が澄んでいる。

家に帰り、屋上で娘と陽が沈むのを見たあと、家のいつも開けない窓を開けてみた。

今までテレビがあったので開けなかったが、先日移動したので椅子もあるし、お酒をおけるカウンターも窓際にある。

開けてみると、正面に月があった。

 

 

お酒を準備して、家族三人で椅子に座って月を眺めた。

明るかった空もだんだん暗くなって、月は明るさを増す。

部屋の灯りを消すと、星も見えてきた。

目を凝らすと、どんどん見えてくる。

「網戸も開けて、部屋から椅子に座って空を眺める」というのが普段と違うところで、ベランダとも違う楽しさがある。

妻は流れ星を見た。

「こんな場所で見れるなんて」

実は私も数日前、軌跡の残る流れ星をベランダから見た。

私もそれが、東京でのはじめての流れ星だ。

部屋を暗くして親子三人、夜空を眺めるのは、なかなかいいなと思っていたら、少し昔の話を思い出した。

あるジャーナリストの女性が、私に語ってくれたこと。

真っ黒な部屋から家族で見た月の話。

 

月見 沼畑直樹

彼女は家族で海外暮らしをしていて、あるときに家族三人で日本に帰国する。

初日、契約した月島のマンションに入るが、荷物がまだ届いていなかった。

さらに、電気も使えなかった。

夜になると部屋は真っ暗になった。

そのときの経験が、忘れられないという。

月明かりがふわっと部屋に入って、窓の外を見ると、月が燦々と輝いていたのだ。

それが本当に綺麗で、家族三人、月見をして過ごした。

日本での暮らしの最初に日に、素晴らしい経験をしたと、彼女は当時を思い出してしんみりしていた。

 

あの話から8年ほどが経って、ついに我が家も部屋から月見。

素敵なミニマリズム体験でした。

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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