紙の本、ふたたび
佐々木典士

ミニマリズムを意識しはじめてから、電子書籍がある本はKindleで買うようになっていた。

(モノクロの本はKindle Voyage、カラーのムックなどはiPad miniで読んでいる)

電子書籍のメリットは、

 

・かさばらない→手放さなくていい

・読書メモとしてのハイライトが簡単にできる。

・新刊の書籍より価格が安い

・暗い所でもバックライトで読める

 

など、たくさんある。旅行に持っていくなら、Kindle以外に選択肢はない。

 

紙のメリットを再認識

 

しかし、最近あらためて紙の本を見直し始めていた。

本を一回だけ読むなら紙の方が記憶ヘの定着率は高いと思う。

 

・本に使われている用紙はそれぞれに違うので、さわった感触や匂いがある。

・本文のフォントや見出しの視覚情報(電子書籍だとフォントが同じになる)が印象的。

・レイアウトが崩れないので、確か左ページの最後のほうに書いてあったな、という場所の記憶も残る。

 

要するに、紙の本のほうが1冊1冊に個性があり、視覚以外も使うので覚えやすい。

 

重要箇所に線を引いたりするだけでなく、余白に自筆でメモをしたりして、そういう行為がまた1冊だけのオリジナルの本をつくりあげる。

 

池上彰さんは、線を引いたりページの角を折ったり徹底的に使い込む「奴隷の本」と愛憎書として大切に扱う「お姫様の本」と本とは2つの付き合い方をしているそうでおもしろい。

 

読書メモ試行錯誤

 

紙の本をメモ書きする場合は、引用する場合もあるので本を見ながらパソコンで打っているのだがとっても時間がかかる。

 

スマホアプリのスキャンソフトや、写真に撮った文字をwordに変換してくれるoffice lens なども使ったのだが、精度がまだまだだし、ファイルをクラウドにアップしてそれをテキストエディタに貼り付けて……とプロセスが多すぎる。(いいやり方があったら教えてください)

 

パソコンでのメモ書きは面倒くさいので、それ自体がハードルを上げることになり、簡単にできてしまうハイライトよりも重要な箇所をピックアップできることになる。

 

何が本当に「効率的」かというのは難しいところで、指でなぞるだけのハイライトよりも自分で打ったほうが時間もかかるだけに記憶にも残る。

 

と思っていた矢先、自分のKindleハイライトをまとめるページが最近アップデートされた。

以前は動作も遅く、本ごとのハイライトも探しづらかったのが劇的に改善されて、見やすくなった。どこでも何度でも読み返しやすいという意味でいえば、これも記憶の定着には有効だ。

 

事後的にわかるメリット

 

おそらく電子書籍のメリットは、こんな風にこれからも改善されていくこと。

しかし、紙の本のメリットまで飲み込むことはしばらくはなさそうだ。

 

おもしろいのは、新しいテクノロジーができると事後的に元からあったもののメリットがわかること。

・紙の本は電池がなくても読める!

・人にも貸せるし、売れるじゃないか! 

 

そして紙の本の「偶然の出会い」も重要だ。図書館に毎日行く楽しみのひとつが、入り口にその日の新刊書がずらっと並べてあること。

そこで普段は立ち寄らなそうな棚の本にも目を通してみる。先日はロボット工学の本が置いてあったので、興味深く読んだ。

 

Amazonのおすすめではこうはいかない、偶然の出会いが決定的だったことは今まで何度も経験しているので、図書館やリアル書店に足を運ぶことはやめないだろう。

 

VR書店の可能性?

 

今年の東京ゲームショウでは「ラーメン」や「餃子」の匂いが楽しめるVRが出品されていた。

いつか紙の本をめくる感触や、匂いも再現したVR書店もできるかもしれない。

 

 

と思ったら、実際にVR書店を準備している人もいた。紙の本をめくるように一覧でき、おもしろい本のアタリがつけられる。そんなVRの書店で偶然の出会いを楽しめる日が来るのだろうか。

 

 

読書メモに関しては、紙と電子書籍の両方を買い、紙で読みながら、ハイライトはKindleでする。という出版業界が喜びそうな方法も考えたが、紙でしかない本もまだまだあるし、試行錯誤は続く。

 

 

日本では売上でいっても電子書籍の割合がまだまだ少ない。アメリカでは電子書籍が日本と比べて大きかったが、その割合もここのところ定着してきた(市場の20%程度)。しばらくは、紙と電子書籍のメリットの共存が続くということかもしれない。

 

自分も紙に寄ったり、電子書籍にフラフラしたりを当分繰り返すと思う。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。