「朝が始まる」に溢れたユー・ガット・メール      
沼畑直樹

 

今朝、妻と子どもが社員旅行に出かけるので、朝方に新秋津という駅まで車で送った。

6時30分に出て、東小金井で一人ピックアップして、7時20分ごろに到着。そこから一人で家まで帰る。

車内には途中で買ったコーヒーがある。普段はカフェラテだけども、間違って買ってしまったもの。

それがなにか、「朝」らしくて新鮮だ。

 

車は武蔵野線沿いの道を南下する。

時間的なことなのか、中高生の自転車が多い。通勤の車もちらほら。

南下する道や人々は、左側から時折射し込む朝日に照らされている。まだ少し黄色く、夕陽のようでもある。

途中、灰青色をした最新のロードスター。みんなが通勤で走っているなか、優雅な雰囲気がある。

仕事に行く前の気晴らしだろうか。それとも通勤だろうか?

 

そんな感じで走っている。

朝陽と通学、通勤の混ざり合う風景は、「朝が始まる」というメッセージに溢れている。

気持ちがいい。

 

普段は8時40分ごろに車を出して、保育園まで15分から20分ほど。幹線沿いで通学の人を見かけることはない。

もう遅い時間なのだ。

気づかないままに、朝の始まりが終わってから家を出ている。

人々の朝の始まりはもっと早い。

 

この家に来てすぐ、朝の散歩をした。5時から6時くらいに出て、近くの川沿いを散歩。

ジョギングしている人と多くすれ違った。

そこに、「朝が始まる」メッセージは、ふんだんにあった。朝陽だったり、鳥の鳴き声だったり。

今は、7時くらいに起きて、朝ご飯を食べて、掃除をして、洗濯物を干して…とやっていると、あっという間に8時30分ごろになっている(朝ドラは必ず観ている)。

何にも、「朝」を感じてない。

夕陽夕陽と言っている割りに、朝陽を重要視していないようだ。

 

今日の「朝が始まる」光景は新鮮だった。みんなが外を歩いている。

朝陽は美しく人や町を照らしていた。

そんな風景は、海外旅行でよく見るくらい。旅行ではいつも早起きしてしまうので、素敵な朝を迎えられるが、日常では自分の場合、ない。

「朝が始まる」を強く感じた映画がある。

『ユー・ガット・メール』だ。

 

映画の冒頭、いずれ出会うであろう二人が、それぞれの朝を始める。

NYのアッパーウェストサイドを歩き、いかにその朝が好きかを主人公が語る。

当時流行り出したスターバックスも登場する。

私は舞台となったあたりにホテルをとって、実際に出てくるベーグル屋やスーパー(ゼイバーズ)に通うという旅を一週間ほどしたことがある。

妻と二人で、時差ボケのために朝5時くらいから歩き出すのだが、ホテルが西のハドソン川に沿って走るリバーサイドという通りにあるのだが、朝陽がとにかく美しい。

NYは碁盤の目だから、西側にあるセントラル・パークから朝陽が届くのだ。

西側の公園の木々に、セントラル・パーク方面から射す朝陽が映る。

 

川沿いの公園には港があり、映画ではトム・ハンクスが甥っ子のような小さい男の子(実際は弟)をボートに乗せるというシーンで出てくる。

その公園では朝、ジョギングしている人たちが多く、「今度来たときはうちらも走ろう」とか言いながら、その公園の散歩を楽しみ、ほどよいころに西側のブロードウェイ(通り名)まで歩く。

すると角にはゼイバーズ。ゼイバーズの横には朝食用にベーグルが朝から売られていて、それを朝食として買う。

ゼイバーズはメグ・ライアンがレジに並んだものの、カードが使えないレジのために困っていたところを、トム・ハンクスが救うというシーンで登場する。他にも、「早朝に粉が舞う」という説明で出てくるゼイバーズ隣のベーグルショップ、H&Hのベーグルもあるのだが、今は移転してしまって携帯電話店になってしまっている。

買ったベーグルはセントラルパークで食べる。

当然、歩いてすごそこ。

 

もしNY観光に行く場合はダウンタウンにたいていは泊まるはずだが、そんなふうにアッパーウェストを拠点にするのも楽しい。

ダウンタウンからバスで帰るのは面倒かもしれないが、住宅とお店が入り組んだアッパーウェストの朝は本当に素晴らしい。

私が最初にNYを訪れたのは2000年のころ。ちょうと全米公開が1998年だったから、その原初体験のころのNYが記録されていて、『ユー・ガット・メール』はとにかく好きな映画のひとつとなった。妻と訪れたのはもう三回目のときで、すでに2009年になっていたが、とにかく楽しい旅だった。

楽しかった理由は、素晴らしい朝を迎えられたから。

もし今、6時に起きて散歩にでかければ、また「朝」を感じ、「始まり」を感じられるはずだけども、果たして起きられるのかどうか。

 

対岸のニュージャージー川のビルを照らす朝陽。

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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