『茶の本』の英語 沼畑直樹

最近、久しぶりに手にしている本。

『The book of tea』。

私がなぜミニマリズムな部屋に惹かれるのかという答えは、すべてこの本に書かれている。

儚い茅屋は屋根と壁で出来ていて、大事なのはその建物(屋根と壁)ではなく、そのエンプティ・スペースなのだという考え方。

不完全な部屋とゲストの想像力によって美が完璧になるということ。

その美を完璧に堪能するために、現世と遮断する路地があること。

 

新居にてどうしてもプラスアルファを求めてしまう心に、あらためて簡素や清貧の響きが心地良い。

 

そこで、気になる文章をピックアップして書き留めたい。たとえば、

Its purpose is to break the connection with everyday life   

目的は日常を断ちきること

これは、路地が普段の世界から別の体験をもたらす場所へ入っていくための最初のステップであることを説明しているパートにある言葉。

また、

to prepare the guest to fully enjoy the beauty to be found in the tea room.

茶室で発見される美を存分にゲストが楽しむ準備のため

と続いている。

 

今で言うリトリートのテイストに近く、こんな文章も少しあとにある。

You may be in the middle of a big city, and yet you feel you are in a forest far away from the busy noise of everyday life.

都会の真ん中にいても、日常の騒音から遠く離れた森の中にいるような気分になる。

 

現代では、シンプルで整頓された空間に佇むと、心が落ち着くのは誰もが知ることなので、そういったホテル、別荘、ラウンジ、カフェ、お寺などが愛されている。特にアマンが始めたホテルの考え方はそれに近い。

ミニマリズムでは、自分の部屋にモノをあまり置かない空間を作ると、旅行をしなくてもそれを味わうことができる。

その場合は、家の中の部屋一室がそうであればいい。

たしかに、以前は必ずあった和室の客間では、モノを置かないままにされていることが多かった。

モノをたくさん捨てなくても、そういう空間が作れるのであればミニマリズムな体験はできるのだ。

 

そういったモノが少ない空間をもっと意味のあるもののように感じるために、この文も紹介したい。

道教(タオイズム)の「空間」の考え方だ。

He claims that real value can only be found in empty space. The reality of a room lies in the empty space created by the roof and walls, not in the roof and walls themselves.

老子いわく、真の価値は空間にのみ見つけられる。部屋の真実は、屋根と壁そのものではなく、屋根と壁によって作られた空間にある。

 

The usefulness of a drinking glass is the space where the water goes, not in the form of the glass itself.

グラスの有益性は、水が注がれる空間であり、そのグラスの形そのものではない。

 

普通であれば、建物そのものを人々は褒め、賞賛する。その形が素晴らしいと。

でも、建築家は当然ながら、それによって生まれる空間に心血を注いでいる。

しかし、その素晴らしい空間は、常に空にして、モノを置いてもまた片付けてというのを繰り返すことで、常に美を感じる空間にできる。

また、その空という自由を味わうことができるのだ。

 

「美」という点でも茶室にはこだわりがある。ゲストが不完全な空間を完全にするのだが、それに使われるのは想像力だ。

True beauty could only be discovered by completing the incomplete.

本当の美は不完全を完璧にすることによってのみ見出される。

In the tea room, each guest must imagine and complete the total effect in relation to himself or herself.

茶室では、それぞれのゲストが想像し、それぞれの関係の中で全体の効果を完璧にしなくてはならない。

 

もし花瓶に花がなくても、ゲストは「そこにどんな花があればこの部屋は調和するだろうか」と想像する。

その想像力によって、不完全だった部屋は完全になる。

これはドラマや小説などでも使われる手法だ。

個人的にもこの考え方には今もまだ圧倒されている。完璧な美を作るのがアートだという考えを見事に壊してくれた。

小学生のころに線だけで表現されたダンジョンを進むRPG「ブラックオニキス」にハマり、心を奪われたのは、貧弱なグラフィックのおかげだ。

その後グラフィックが高度になっていくのにつれ、RPGはやらなくなった。

 

 

脱線したが最後に、禅における小さいと大きいの考え方。

Zen held that there was no difference between the small and the great, that the smallest speck of dust was equal to the universe.

禅は最小と最大に違いはないと説く。最も小さい点である塵は、宇宙とイコールだと。

 

人は小さいものは小さく、大きいものは大きいと比較によって判断するが、ひとつ一つと自分自身が向き合う場合、すべてが大きくもなり、小さくもなる。要は自分の考え方次第で世界は変わるのだという意味。

つまり、「小さいのがいい」と言っているわけでもなく、小さいとか大きいとかの絶対的指標に惑わされるなということだと思う。

自分で決めなさいと。

 

 

 

 

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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