半径5mからの環境学「セルフビルドについてAKIRAさんに聞く」
佐々木典士

和歌山市から高野山の間にある三尾川という小さな集落。周囲は棚田と桜の木と澄んだ川。そんなとても気持ちのよい場所に7棟のセルフビルドの建物からなる「デュニヤマヒル」はあります。ストローベイルハウス(わらのブロックと土で壁を作る家)やアースバッグハウス(土嚢袋を積み上げて作る家)など工法もさまざま。映画のセットのような、おとぎの国のような、そんな不思議な場所を訪ねました。

初出:「むすび」2018年5月号(正食協会)

今月のゲスト AKIRAさん

AKIRA ●1957年福岡県生まれ。2005年に和歌山移住、2011年からセルフビルドで家を建て始める。舞台照明デザイナーとして活動する傍ら、アースバッグハウスなどセルフビルドのワークショップも多数開催。

 

セルフビルドによって建てられた8棟の建物がある「デュニヤマヒル」。左がアースバッグハウス。右がストローベイルハウス。最新作はなんと劇場!!

 

食から自然農にも興味

──AKIRAさんは本業が舞台照明のデザイナーで、都会の生活も長かったんですよね。

和歌山に来たきっかけは、息子の学校でした。「きのくに子どもの村学園」という体験型の授業と子どもの個性を重視している学校で、そこに編入するために家族で和歌山に移り住んだんです。

──そして住まいは和歌山、仕事は東京という生活をされます。

舞台照明の仕事はアイデア勝負なんですが、自分のひらめきがどうもワンパターンになってきていると感じたんです。でも長年の経験はあるから自分の引き出しにあるものを組み合わせると一応仕事にはなる。そうすると好きで始めた仕事なのにビジネスのようになってしまって嫌になってしまって。そこで自分のアイデアの源がどこから来ているのか、ということを考えるようになって食について興味を持つようになったんです。子どもの学校には、保護者の方もおもしろい方がたくさん集まっていて、そこでマクロビを実践している人にも出会ったり、じゃあ玄米を食べてみようかとか。今考えるとそういう出会いも大きかったですね。

──それでWWOOFで農作業をされるまでになったんですね。(※WWOOF(ウーフ)=ホストと呼ばれる有機農家などとそこで働きたい人(ウーファー)をつなげる仕組み。ウーファーは労働を、ホストは宿泊場所と食事を提供し、お金のやり取りはしない)

53歳でウーファーになるとは思いもしませんでしたけど(笑)、ホストの方は快よく受け入れてくれたんです。そして実際に自然農で作られたものを食べてみると美味しいだけじゃなくて、味を通り越して本当に気持ちがよくて、エネルギーをもらえる。自分でも作りたくなって当時は畑を借りたりしていました。

寝室として使われているストローベイルハウス。目の前には桜の木、そして渓流からの音。土壁は本当に安らげます。

「普通の家はつまらない」

──そこからどういう経緯で、こちらを建てられることになったんでしょうか?

自分で設立した会社も人に譲ることにして、退職金をもらったんです。子どもの学費にしようと思ったんですけど「自分のやりたいことをやらなきゃ」と思うようになって、この土地に出会ってここだ! と直感して買っちゃったんです。

──奥様の反対はありませんでしたか?(笑)

埼玉に「あけぼの子どもの森公園」というところがあって、ムーミンハウスが再現されているんですよ。うちの奥さんも「普通の家はつまらない、ムーミンハウスに住みたい」って言ってたんですよ。キノコみたいな丸いフォルムにはぼくもインスパイアされました。

──セルフビルドを始められるにあたっては、どう勉強されたんでしょうか?

もともと日曜大工は趣味で、都会に住んでいたときもウッドデッキなんかは作っていました。舞台の仕事もしていたので、頭の中にあるアイデアをゼロから現実に作り出すという手法も染み付いていました。でも大きかったのは世界中のセルフビルドの家を集めた『ホームワーク』という本に出会ったことですね。ファンキーな家がいっぱい載っていて、人がなんと言おうが、自分でこれでいいと思えば家なんかどう作ったっていい、そう思えたんです。

計100人もの人の手によって積み上げられたアースバッグハウス。音響がよく、ライブやレコーディングにも使われるとか。

ワクワクを大事にする

──セルフビルドされる上で大事にしていることはありますか?

最初に念頭にあったのは建てた家が「土に還ること」でした。第一号の壁を畳で作った家にしてもそうで、たとえ崩れたとしてもいつかは土に還る。そして基本的には廃材を使っています。壊される家がたくさんあって、古民家の土壁をもらってきたり、建具をもらってきたりしました。廃材だと安くてすむし、廃材だからこそできるおもしろさもあるんですよね。

廃材や、流木、もらってきた素材を有効利用して作られた建物の数々。

──驚くのは、土壁の家に入ると気持ちが不思議なほど安らぐことですね。

そういう癒やしのパワーが明らかに土にはありますね。今はプラスチックやビニールなどの化学物質もできるだけ目に入らないようにしています。都会の家だと、どれぐらい駅に近いとか、間取りがどうだとか、機能性だけが重視されますよね。セルフビルドでもそうですが、ぼくが大事にしているのは、機能性ではなくとにかく自分がワクワクすること。我慢してエコに暮らすというのもぼくは嫌なんです。自分がワクワクすることや気持ちのよいことを追求していった結果がエコにもつながっているといいですね。

AKIRAさん作成の軽トラモバイルハウス。独創性とセンスに驚きます。「他のものは参考にしなかった」とか。

AKIRAさんよりおすすめの1冊

ロイド・カーン著
ホームワーク」(ワールドフォトプレス)

AKIRAさんがセルフビルドを建て始められる原点ともなった本。「『家を立てたくなる力がわく』というコピーは自分のために書いてくれたのかと。読み終わった次の日には金槌を握っていました(笑)」

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。