大きなことをするために。シャルジャ国際ブックフェア
佐々木典士

シャルジャ国際ブックフェアに参加してきた。シャルジャというのは、ドバイの上に位置し、アラブ首長国連邦のひとつをなす首長国のひとつ。各国に世襲の首長、王様がいる。(たまにドバイを国だと思っている人がいますが、間違いであって間違いではないということかも。法律も首長国ごとに違う)

白い服(カンドゥーラ)を着た男性や、黒い服(アバヤ)を着た女性ばかり。アウェーマニアとしてはゾクゾクする。

ヤクルトやシャトレーゼは中東でも展開しているそう。ドバイには「銀だこ」も回転寿司もあるよ。

規模が大きいということだけは知っていたけど、日本が名誉ゲストだとか、日本から有名な作家さんがたくさん来るということは、現地に行ってから知る(笑)。今回は海外のエージェントと、英語のメールのやり取りだけをなんとかこなしてやって来たのだった。

ゲストは桜庭一樹さん、中島京子さん、中村文則さん、西加奈子さん、湊かなえさんなど、なんでぼく呼ばれたん? と思いましたよね。ぼくなんかに、ビジネスクラスを用意してくれたり、空港からの送迎もレクサスで送ってくれて、どんな予算だよと思っていたがゲストの顔ぶれを見て少し納得した。

飛行機の中にあるバーカウンター。CAさんたちはずっとここでおしゃべりしてる笑。

 

首長が読書文化を育てるために、日本を名誉ゲストにしたとか、力の入れようがすごい。プライベートビーチつきのホテルも豪華。

ロシア系の人たちがバカンスに使う地域だとか。

 

しかしホテルについてからは、もてなしの様相は変わる。
まず、チェックインしようとしても自分の名前がなかった。

ホテルにはブックフェアのヘルプデスクがあるので、交渉してもらう。違うホテルになるかもと。そしてなんだかんだで2時間ぐらい待ち、ようやくフロントに呼ばれ言われたのが「この部屋は今夜だけ」。滞在は一週間の予定。あわててまたヘルプデスクに行くと「心配しないで」と。どちらが本当なのか……。

 

この後、ビーチで泳いでいたらiPhone水没というハプニングがあったが、これは自分のせい。せっかくの機会に写真を撮れないのは悲しいので、ドバイモールのApple Storeまで急遽買いにいく。インド人のキュートな女の子から購入!(ちなみにFaceTimeは使えない仕様、代わりに写真はマナーモードで無音になる)

ドバイモールは世界最大のショッピングモール。水槽も世界最大とか。

今回招待された作家さんは、ブックフェアでのトークする他に、現地の中学校や高校に行って講演するというプログラムをそれぞれ担っている。トークや講演の時間自体は決まっていたが、いつ集合すればいいかなどは決まっておらず、ホテルの部屋に手紙が来たり、ヘルプデスクと直接交渉したりする。

 

ぼくが行ったのは、さらにお隣の首長国アジュマンというところにあるインドのインターナショナルスクール。本当に温かくもてなしてくれた。ぼくはいつもPowerPointを使って話す(ないと話せない)ので、日本からコネクターを持っていった。そのこと自体は、メールのやり取りで確認していた。しかし、コネクターが合わない。

 

「さあ、登場頂きましょう。佐々木典士さんです」と言われてからすでに数分経過。眼の前には、すでに椅子に座って待っている学生たち。あわてて、USB経由でデータを現地のパソコンに移して使用した。

授業はすべて英語。これからの未来を感じさせるしっかりした学生たち。

トークをなんとか終えて。歓迎ぶりがすごい。

 

こんなのは序の口だった。
・桜庭一樹さんは送迎の車が来ない。
・中島京子さんも、ホテルの予約が取れてない。
・湊かなえさんに至っては講演で訪れた学校が、お嬢様校だったらしく、通訳の男性が校内へ入ってはいけないと。湊さんは英語を話せるので事なきを得たそうだが、もし自分だったら!!

ゲストでトラブルがない人がいないぐらいだったので、お話したときに盛り上がる。
しかし、

日本でこんな有名な方ばかり集めて、きちんと段取りを取ろうと思えば相当の労力が必要になる。日本式に、きちんと集合時間と帰る時間を事前に決めて、お付きの担当者を決めて、もちろん事前の打ち合わせも入念に! という方法ではお互いに疲れてしまう。

 

企画の段階で、労力が想定できてしまうので「無理でしょ」「現実的じゃない」「お前何夢見てんの?」という話になるに違いない。

苦労はあったが、嫌な気持ちはしない。
「飛行機は用意した。講演の時間も決まってる。重要なのはこれだ。あとはヘルプデスクがあるから、困ったことがあったら言ってね」という感じ。

 

ゲストが砂漠ツアーや、ディナーに参加できるプログラムもあったが、いちいち参加確認などもない。集合時間にロビーに来ていなければ、来ないのだろう。そういう感じ。

日程が合わず個人で予約した砂漠ツアー。ジェットコースターのようなドライブ。ラクダや四輪バギーにも乗った。

 

労力を運営スタッフだけに過度に分担させず、ゲストも含めてそれぞれが請け負っている。それが心地よい。働いている人で疲れ切っている人が見当たらない。

 

中村文則さんはUAEでの体験を幸福だったと書かれていた。桜庭一樹さんも楽しくて、行ってよかったとおっしゃっていた。それぞれにトラブルはあったけれど、それでも嫌な気持ちではなく心地よさを感じるのは、異国の楽しさだけではなく、こんなところに理由があるのではないだろうか。

現地のラジオにも突然出ることに。たまたまいたので、「お前でいいわ」と即興でいろいろ決まっていく笑。

アラブ首長国連邦はほんの数十年前に、石油が見つかり発展した国だ。ドバイだって10年前には何もなかったそうだ。だからこそ、カオスだからこそ、大きいことができる。みんなが平等に困りながら、いちばん重要な「実現すること」を優先している。

ブルジュ・ハリファの上から。シムシティをプレイしているみたい。100年後はここがニューヨークみたいになるのかも。

世界最大の「枠」。ドバイフレーム。

日本はいろいろ技術は優れているが、手続き上の問題が多すぎて実現に至らないとよく言われる。海外から日本に帰ってきてバスに乗るだけでわかる。代金をカードで支払うと、何枚もレシートが出てくる。そのそれぞれに意味がよくわからないハンコが押される。バスに荷物を預けると、きちんと引換証が渡されて……。

細かい雑事だらけなら、誰だって放り出したくなる。

もてなされる側だって「そこまでしてくれなくていいです……」と疲れてしまう。

 

お客様は神様ではなく、お客様はお客様だ。
もし、お客様が神様なら、働いている人も神様だ。

お客様は神様だという人がいたっていい。
しかし、それを基準にルールを作ってはいけない。

巡り巡ってみんなが疲れてしまう仕組みは、そろそろ終わりにしませんか?

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。