憧れから距離を置く 佐々木典士

 ここのところ憧れることをできるだけ避けるようにしている。ぼくにも見てしまえば憧れる人はたくさんいる。それぐらい博識だったり、たくさんの本を書けたらどんなにいいだろうかと思う作家や研究者。もしくは自給能力やサバイバル能力が高くてたくましい人たち。

 憧れる人に追いつこうとして努力が後押しされることはあると思う。でも誰かに憧れることは、そこに至るまでの距離を自然と意識することでもある。距離がある程度離れているからこそ憧れ、すぐにできそうなことをやっている人には憧れないわけだが、そこにたどり着くまでの努力の総和に思い至るとやる気がなくなってしまう。

 誰もが今日の自分、今の自分にできる小さなことをやるしかない。それなのに、総和に思い至ってしまうと今やるべき小さなことがバカバカしく見えてしまう。いまさらもう遅いと、手遅れのように感じることもある。「憧れさせる」ビジネスはますます横行しているので、そうなると一発逆転やショートカットの誘惑にハマってしまう。実際に何かやるのではなく、効率のよい方法論探しに明け暮れる。ぼくがそうだったのでわかる。

 誰かに憧れてみても、決して自分以外の誰かにはなれない。憧れる人たちへの仲間入りができた気になっても自分ならではのものがなければ、ほどなくそっぽを向かれるだろう。結局はほとんど意味のないように思える、小さなことを今するしかない。たとえそうは見えなくても、憧れの人たちもそうしてきたはずなのだから。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。