おもてなしと忖度と「ペンタゴン・ペーパーズ」
佐々木典士

相手が口にしてないのに、その要望をたぶんこうだろうと推測し先回りして行動する。

喜ばれる「おもてなし」も、嫌われる「忖度」も根は同じ行動だ。

自分が思っていることであっても、直接口にしないことで軋轢を避ける。それは美徳でもある。しかしそうすると直接表されていないものを、いかに「うまく読めるか」が腕の見せどころになってしまい「空気の読み合い天下一武道会」が開催されてしまう。

 

仕事をしていてもたびたびこういう問題は起こる。力を持っている側が考えそうなことを考えなければいけない。以前、イタリアの雑誌でミニマリストを扱ってもらったことがあるのだが、ガラーンとしたミニマリストのクローゼットの対向ページに、ファッション広告が掲載されていてこちらが不安になったことがある。

 

 

ぼくにも日本スタイルの思考法はすっかり染み込んでいる。ぼくがその雑誌で働いていて、それに気づいたら「編集長、これ大丈夫ですかね?」と確認してしまう気がする。おそらくあのイタリアの雑誌では「記事の内容は、広告に影響されるべきではない」という考えが、編集部にも広告主にも共有されていたのではないだろうか? (もしくは単にイタリア人がおおらかで、あんまりいろいろ気にしてないというだけかもしれない。あの取材でも待ち合わせの方法もインタビューのスタイルも、今まで受けた取材のなかでいちばんおおらかだった)

 

そして「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」。このスピルバーグの新作は最高すぎる映画なのでぜひ見て欲しい。

 

こちらは口に出されない要望どころではない。この映画は政府から露骨に要望(圧力)がかかったとき、どうしたかというワシントン・ポストの物語だ。誇りを失ってしまえば、そこで終わりだ。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。