半径5mからの環境学 移動する暮らしについて、荷台夫婦に聞く 佐々木典士

1トントラックの荷台にDIYで作られたキャンパー「ゆんゆん号」。結婚したばかりの夫婦は、荷台を新居に新婚生活を始めることにしました。名付けて「荷台夫婦」。合言葉は、不動産から可動産へ。移動する暮らしの実情と、これからの思いについて聞きました

初出:「むすび」2018年7月号(正食協会)

【荷台夫婦プロフィール】

●龍本司運 (夫・たつもとしうん)・龍本かおり(妻)。夫の司運さんは京都から沖縄までの無銭旅、中国3000kmの徒歩横断などの旅をへて、モバイルハウス作りへ。エコヴィレッジ、シャロムヒュッテにて、かおりさんと出会う。交際期間ゼロで結婚。

シャロムヒュッテで出会って

──お2人は、2月号で登場してもらった、臼井健二さんが作られたシャロムヒュッテ(現在はイラムカラプテ)で出会われたんですよね。シャロムで実践されている、パーマカルチャーや、農的な暮らしにも元々興味があったんですか?

司運「ぼくは、最初からモバイルハウスを作りたくてシャロムに行ったんです。臼井さんが作っていた「足る足る号」という軽トラキャンパーもありましたし。臼井さんは教えるというよりも、実際にやらせてみて学ばせるというスタイルですけど」
かおり「私は、ずっとセラピストの仕事をしていたんですけど、本当にみんなストレスがあって疲れていたんですよね。もちろん一時的には癒されるんですけど、もっと根本的な暮らしを変えなきゃいけないんじゃないか? それにはもっと身近な範囲でお金も食べ物も循環するような暮らしがヒントになるのではと思い至ったんです」

総工費15万円という手作りキャンパー。DIY経験もないところから、イチから試行錯誤して作り上げました

──司運さんが、モバイルハウス作りをしたいと思ったきっかけは何でしょう?
司運「ぼくはずっと旅をしていたんですね。お金を手放して、京都から沖縄まで無銭で旅したり、中国3,000キロを歩いて旅したり。でも旅は、自分では生産せずお世話になりっぱなしになることでもあるんですよね。そこから自分の拠点、住まいというものについて意識的になったんです」

ホームシアターで映画

──水やお風呂といった暮らしに必要なものはどうされてるんでしょうか?
かおり「水は湧き水を汲んだり、お風呂は銭湯に入ります。洗濯は基本的にコインランドリーですね」


──食べるものは、どうされてるんですか?
かおり「まな板と包丁とカセットコンロなど基本的な調理器具はあって、冬場はストーブも調理に使っています。ご飯は車の12Vで炊ける炊飯器があるし、保温調理器を使うと、エネルギーをたくさん使わずに煮込むこともできますね」


──冷蔵庫はないですよね。
かおり「食べるものは基本的に野菜や、豆が多くて、冷蔵庫は必要ないですね。野菜は助手席のダッシュボードで干してます。日当たりもいいし、虫もつかないしおすすめですよ(笑)」


司運「スマホ程度なら電気はソーラーパネル発電で足りますし、最近はモバイルプロジェクターを購入して、ホームシアターを楽しんだりしてます」


──ぼくもそんなの持ってない(笑)。すごく充実した暮らしぶりですね。
かおり「困っていることもないし、耐え忍ぶ生活とは全然違います。映画見ながら、ビール飲んだりしてますよ(笑)。」

車内での料理の様子。玄米、野菜、きのこ類などが中心。保存の効く食材を使って食卓には多彩な料理が並びます


──生活費は月6万ぐらいで済んでいるそうですが、どうやって生きてるんですかとか言われないですか?
司運「ガソリン代に1万、食費に3万。あとは何か買ったり雑費程度で特に節約しているという意識もないんですよね。仕事はnoteに記事を書いたり、各地でワークショップをしたりしてます。動き続けてると人と出会うから、そこで仕事が生まれるんですよね。ぼくが個性を出すことで、個性を持った人と出会うことができて、そこでタッグを組むことができるんです」

軽トラやピックアップトラックを使った独創性あふれるモバイルハウス。それらが一堂に会した「キャンパーフェス」の様子。

常に変わり続けること


──これからの暮らしで挑戰したいことを教えてください。
司運「モバイルビレッジと呼んでいるんですけど、まずは自分たちの拠点となる場所作りをしたいと思ってます。自分たちが畑をしたりして住みながら、そこにモバイルハウスで旅する人が立ち寄れたり、いずれは作りたい人にとっての工房も兼ねたり、そういう場所を作りたいと思ってますね」


──車はディーゼルだから、天ぷら油で走るようにも改造できるそうですね。
司運「移動費がゼロに近くなるし、さらに捨てられるもので走れるというのが夢がありますよね。ただ故障やメンテナンスは増えるそうですし、天ぷら油を濾過したりする場所が必要なので、そういう意味でも拠点は必要だなと感じています。拠点がありつつも、寒くなったら南に移動したり、そういう暮らしがしたいですね」


──自分の暮らしから何か伝えたいメッセージはありますか?
司運「ぼくたちのような暮らしに続く人がいたらそれはそれで嬉しいんですけど、今の人は、方法論に頼ったり、救われ方をすぐ考えちゃうんですよね。ぼくたちもこのライフスタイルに固執しているわけじゃなくて、常に変わり続けることが大事なのかなって思っています。「荷台夫婦」という肩書も捨てる時が来たら潔く捨てようと思いますね」

──この取材直後に「ゆんゆん号」は事故に合い廃車になることに。宣言通りお2人は肩書を「野良夫婦」と変えました。ゆんゆん号も復活し、子供が生まれてからはそれは「荷台家族」となりました。そして今新たに100万円で購入したログハウスをオフグリッド化、拠点を作るべく新たな試みを始められました。生活を綴ったnoteはこちら。


荷台夫婦おすすめの1冊

「黒板五郎の流儀―「北の国から」エコロジカルライフ」(エフジー武蔵)

ドラマ『北の国から』で描かれた、廃材や自然素材を使った家造りや、自給自足。ドラマで五郎さんが使った方法を丁寧に紹介した本。DIY精神の宝庫で、手にすると実践したくなります。



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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。