ミニマリズムだらけの車選び 〜NDロードスター〜
佐々木典士

 

車選びをするうえでは、いろいろなミニマリズムが考えられる。

・旧型のminiのように車自体が小さいこと。
・ハイブリッドカーのように、消費するガソリンが少ないこと。
・ぼくが乗っていた軽自動車のように、とにかく価格が安いこと。
・デザインが引き算で考えられていること。
・乗れる人数が少ないことや、積載性がないこと。

ぼくが選んだのは最後の2つだった。2シーターのオープンカー、マツダの魂、NDロードスター。

今売れている車は、とにかくたくさん荷物が積めたり、軽自動車なのに大きかったり、そういう車なのでそれとは正反対のような車だ。

もちろん家族の人数が乗れる分だけの車を選べばいいのだが、それ以上の人数を考え始めたりとすると話は変わってくる。

車を買うときには、仲間も荷物もぎゅうぎゅうに詰め込んで、楽しくキャンプや旅行に行くというような場面を想像したりするが(実際、車の広告にはそういうイメージが多い)実際そんな機会は少ない。

日常を輝かせるために

 

道行く車を眺めていると、ほとんどが1人だけで乗っているか、せいぜい2人ぐらいで走っている。その時それ以外のシートや、そのために必要なスペースはただの重しで、それを引きずって車は走っている。

ぼくは独身。そして99%以上はただ1人で乗っているから、座席は2つで充分だ。ミニマリストの発想は、日常の99%はそれで行われているのだから、特別な1%の機会のために99%が損なわれないようにしようということだと思う。

家の間取りでも、誰かが泊まりに来るから部屋が、布団が必要だとなってくればその維持のために日常はすり減っていく。

だから何かを、いさぎよく割り切る。ぼくの車は2人しか乗れないので、4人で旅行には行けない。誰かを駅まで送るとしたら、1人までだ。シートは倒れないので、大好きだった車中泊もできない。車高が低いから、河原にも入れないだろう。

しかし。日常の99%は輝き始めた。2人しか乗れないのは、車の中心部に重心を集めたいから。車を構成する中でも重い部品が人だ。車は1トンを切る軽量。そして重心を低く集中させると、まわるコマのようにクルクルとカーブを曲がれる。

 

何の変哲もない交差点を曲がるだけで、口元がほころぶ。カーブを曲がるとき、体をくねらせなければいけないようなGは不快だ。しかし、気持ちのよい加速で体が押し出されたり、適度なGが体にかかりながら滑るようにカーブを曲がっていくのは本当に楽しい。

これはサーフィンやウィンタースポーツの楽しみと同じだと思う。
物理現象を自分でコントロールした、という達成感も同じだ。

罪悪感がなくなったわけではない。とりあえずの今は電気自動車を諦め、どこでどういう風に、希少なガソリンを使ってもいいと自分に許しを与えているのかはよくわからない。田舎では車が必須だからか、みんなも乗っているからか。せめてと考えて、古い車ではなく燃費の良い新しい車を選んだ。楽しみが同じなら、もっとエコなサーフィンでも満足できるのかもしれない。

見つける独自のもの

 

モノを減らすには、シェアやレンタルでいい。ミニマリストの発想はこれだ。車もシェアやanycaのような個人間の便利なレンタルサービスがあって、とくに運転が好きでない人はこれでいい。しかしぼくは今、できるだけ長く運転席に座っていたいと思うようになってしまった。

私のウチにはなんにもない。」のゆるりまいさんは、家にはモノが少ないが、バッグはたくさん持っている。そしてそのバッグはこれより多くても暮らしにくいし、少なくても幸せではないとおっしゃっていた。減らしてみて、そ独自の大事なものを見つける。どうやらゆるりさんにとってのバッグが、ぼくにとっての車のようだ

 

マツダもミニマリズムの会社だ。シェアは2%でいいと割り切っているから、攻めた車作りができる。車のラインナップも名前もデザインも、店舗もミニマリズムに貫かれている。そして変態的な情熱を持った開発陣。ジョブズのような怪物はいなくても、その製品が大好きな人々が集まれば、理想が具現化できるという見本。

 

亡き父もどうやらマツダ党だったらしく、サバンナ、ルーチェなどマツダ車を乗り継いでいた。亡き父との会話を交わす。魔女は血で飛ぶし、血は争えないのか。

好きなものには、取り去らわれる

 

車にハマっている人(兄とか兄とか父とか)を以前はどこかでバカにしていたし、ミニマリストとしては「車はいらない」という方がわかりやすい。しかしどうやら、めちゃくちゃ好きみたいだ。10代で出会っていたら「レーサーになりたい!」と言っていたような気がする。人がどんなタイミングで何を好きになってしまうのか、本当にわからない。

 

そして選んだこの車。あらゆる車の中で、ぼくにとって最高の1台だ。旅から帰ってくるとただいまと言いたくなるし、運転したくて仕方がなくなる。「自由と結婚した」と今まで説明していたが、もしかしたらロードスターと結婚したのかもしれない……。

大事にしたいものができて失ったものもある。
それはまた書く。
(最小庵は手放します。企画も近日中に行いますので、お楽しみに)

 


スピリット・オブ・ロードスター ~広島で生まれたライトウェイトスポーツ

変態的としか形容できないマツダの開発陣の情熱。
技術的の細かいところはよくわからなくても、とにかくすごいとしか言いようがない。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。