Less is future

Think small   Think広告のルーツ       沼畑直樹

以前にホンダのアメリカにおける広告で、Think different(アップルコンピュータ)のルーツとなるもの(「Think simple」)を紹介した。

しかし、それよりも前の1960年、フォルクスワーゲンビートルの広告において、Think系広告は始まっていた。

広告展開を行ったのは、アメリカの広告代理店であるドイル・デーン・バーンバック。

小さいビートルのイラストに、小さく「Think small」。

当時大きければ大きいほどいいと考えられていたアメリカ人の自動車の対する価値観では、小型のビートルは立ちゆかず、「価値観を問う」ことを広告展開の柱としたのだ。

 

Think small

 

Ten years ago, the first Volkswagens were imported into the United States.

10年前、最初のフォルクスワーゲンがアメリカに輸入された。

These strange little cars with their beetle shapes were almost unknown.

この奇妙で小さくカブトムシのような形をした車は、ほとんど知られていなかった。

All they had to recommend them was 32 miles to the gallon(regular gas, reguiar driving), an aluminum air-cooled rear engine that would go 70 mph all day without strain, sensible size for a family and a sensible price-tag too.

売りはレギュラーガスの普通の運転で32マイル/ガロンの燃費で、アルミニウム空冷のリアエンジンは70mphで一日中壊れることなく走れるうえに、家族に向けたサイズであり、値段も考慮されているということだった。

Beetles multiply; so do Volkswagens… By 1954, VW was the best-selling imported car in America. It has held that rank each year since. 

カブトムシが倍増するように、フォルクスワーゲンは増えている。1954年、アメリカでベストインポーテッドカー(輸入車)となった。以来、毎年それを堅持しているのだ。 

In 1959, over 150,000 Volkswagens were sold, including 30,000 station wagons and trucks.

1959年には、15万台以上のVW(うち3万台がステーションワゴンとトラック)が売れた。

Volkswagen’s snub nose is now familiar in fifty states of the Union, as American as apple strudel, in fact, your VW may well be made with Pittsburgh steel stamped out on Chicago presses (even the power for the Volkswagen plant is supplied by coal from the U.S.A)…

VWのしし鼻は今や全米50州でアップル・ストルデル(お菓子)のように親しまれ、実際、あなたのVWはピッツバーグ製で、鉄鋼はシカゴでプレスされている。(動力に必要な石炭も全米のもの)

As any VW owner will tell you, Volkswagen service is excellent and it is everywhere. Parts are plentiful, prices low. 

どのVWオーナーも言うでしょう。VWのサービスは素晴らしく、どこにでもある。パーツは豊かで、値段は安い。

Today, in U.S.A, and 119 other countries, Volkswagens are sold faster than they can be made. Volkswagen has become the world’s fifth largest automotive manufacturer by thinking small. More and more people are doing the same.

今日、アメリカと119の国で、VWは生産が追いついていません。VWは小ささを追求することで、世界で5番目に大きい自動車会社となりました。もっと多くの人々が同じように考えています。

参考本)Thinking Small: The Long, Strange Trip of the Volkswagen Beetle

 

「小さく考える」というメッセージがふんだんに溢れているのかと思いきや、そうでもない。

コピーを考えたのはジュリアンという人で、ウォルフスブルグへの旅の道中、「ただ真実を伝えたい」と考えていたという。

要するに当時は、誇大広告がまかり通っていたのだ。

また1959年、アメリカでは歯医者でもサブウェイでも、あらゆるところでベストセラー本のタイトルを見ることができた。そのタイトルは、「The Magic of Thinking Big(大きく考えるという魔法)」。

タイトルからすると、大きく考えることで何事も叶うような内容だが、実際は巨大化した資本主義に警鐘を鳴らすものだった。

勢いのあったアメリカは「スーパーパワーを持っている」と考えられ、成長しか考えず、「小さい」は価値としては無視され続けた。しかし、大きさばかり求めた代償が少しずつ問題化してきていたのだ。

それでも広告業界ではまだ、「thinking big」というアイディアは広告と深く強く結びついていた。

広告も大きく、夢をみさせるものが正しく、静かに真実を伝えるのは、広告ではなかった。

そんな時代に、ジュリアンは「ただ真実を伝えたい」と思ったのだ。それは、読者のエゴを勢いつかせないということ。静かにただ真実を伝えようとすると、「ビートルは小さい」という内容になった。

 

Think smallに込められた意図

余白たっぷりの「空間」に、小さなビートルがぽつん。

1960年2月、この広告がライフ誌に掲載されると、見たことのないデザインとコピーは衝撃をもたらした。

この広告を「作らされた」アート・ディレクターのヘルムートはこの仕事を嫌悪し、制作中も反対し続けたが、結局はこの広告でベストセラー作家のようになったという。

当時の自動車は「より大きく、できるだけ広く」が求められ、広告は車でレジャーを楽しんでいる美しい時間を表現するものばかりだったため、ヘルムートが反対したのも無理はない。

ヘルムートは小さなビートルが余白に置かれたデザインだけでなく、タイトルにも反対した。

コピーライターのジュリアンは、文章に書かれている「thinking small」がタイトル(ヘッダー)になることを望み、提案したが、ヘルムートがそれを認めず、何度も代替案が提案されたが、一向に決まらなかった。最後はVWも含めた話し合いでドイツ側のメンバーが「Think smallがいい!」と発言。ジュリアンの案が採用された。

 

凄かったのはその後で、人々はこの広告をランチの時に見せ合い、自分の部屋の壁に貼ったりした。

ただその広告1枚を欲しいがために、ライフを人々は買ったのだ。

それだけヒットしたのだから、「小さくても良い」という価値観は少しずつアメリカ社会に受け入れられていった。

もしかすると、今の人々が持つ環境意識にも小さく繋がる広告だったのかもしれない。

 

ジュリアンという人は、「小さく考えることはどういうことか」と考えたり、「大きいが絶対価値であることは問題だ」とまでは考えていなかったようだ。

小さなビートルが大きな国に認められるために、ただ「ビートルは小さくていい」「VWは小ささを追求している」と書いたのだが、それがやがては「Think different」にも繋がることになる。