ついに購入に至った、アブラサスの薄い財布。
箱を開けるとシンプルな説明書と、アブラサスのステッカーが入っている。アップル製品を開けるときのようで、嬉しくなる。
早速前使っていた財布と比べてみる。横幅は2分の1、薄さも2分の1以下、体積は5分の1になった……。収納できるカードは24枚から5枚へ。こちらも大体5分の1。
マキシマムな財布から、ミニマルな財布へ。一晩で汚部屋から、ミニマリスト部屋になったような破壊力がある。
モノを捨てる鉄則は、「まず収納を捨てる」ことにあると思う。
害虫を駆除するには、それぞれの虫を駆除するのではなく巣を叩くはずだ。それぞれの虫を駆除していても、巣があればいつしか虫は集まってしまう。
モノも同じだ。個別のモノではなく、「巣である収納」をまず叩くのだ。巣を叩けば、いつしかモノはどこかへ消えていってしまう。
収納できるカードを減らすと、強制的にカードが減る。
フフフ……ぼくは得意げだった。
まだ何もわかっていなかったからだ。
惨敗のファースト・コンタクト
薄い財布を特徴付けているのは、小さな小銭いれスペース。小銭が15枚だけ入る。
はじめてこの薄い財布で買い物をしたときのことが忘れられない。
ぼくは710円の鮭弁当を買った。かなりの量の小銭はあるのに、なぜか100円玉や50円玉ばかり。10円を払える小銭がない。仕方なく1000円を出した。
「お釣り、290円になります」
店員さんはごく当たり前に言った。だがこの当たり前の事実を前に、ぼくはすでにパニックに陥りかけていた。
「バカな! もうすでに小銭入れは、はちきれんばかり。そこに290円だと……く、狂ってる」
人知れず、レジの前であたふたしているぼく。
「……小銭。圧倒的……小銭!!!」
ぼくはすでに『カイジ』的な世界へ突入していた。
小銭を受け取り、レジから少し離れた場所で慣れない手つきで入れてみる。結果、いくら詰め込んでも小銭はやはり入らなかった。財布に入らなかった分は、ポケットに入れた。ファースト・コンタクトは惨敗だ。
「あんなに迷って選んだのに……。この財布と、やっていけないかもしれない」
買ったばかりなのに不安が頭をよぎる。この後も2回は、小銭入れに入りきらずポケットに小銭を入れることになった。やはり自分には合っていなかったのだろうか……。
だが、この財布が悪いのではなかった。マキシマムな財布のつもりのまま、ぼくが支払いの態度を変えなかったのがいけなかったのだ。
なんでもない幸せ
この財布は使うポイントは、「なるべく小銭が減るように支払いをしていく」ということだと気づいた。
今まではちょうど支払えるときにだけ、小銭を使っていたような気がする。戻ってくる小銭の枚数には無頓着。結果、大きな財布でもいつも小銭がパンパンだった。
出す小銭に対して、なるべく戻ってくる小銭が少なくなるようにほんの少し計算する。数に弱いぼくにはいい頭の体操だ。(ふと思ったが、これはみなさんやっていること? ただの常識でしょうか?)
そしてアブラサスの財布で、小銭をきっちり支払えたときの充実感といったらない。普通の財布の何倍も気持ちがいい。
小銭をきれいに使い切り、小銭入れに「何もなくなった」ときがあった。
例えるなら「ぷよぷよ」の全消しの解放感。こんな小さなことを、大きな喜びに変えてくれる財布はない。
コペルニクス的転回(おおげさ)
それでも小銭が多くなってくることはやはりある。ある日、コンビニで支払いをしていたぼくに、輝くようなアイデアが浮かんだ。
「小銭は寄付すればいいんだ!」
寄付を妨げているのは、金銭的な痛みではないと思う。数円や数十円など、他でいくらでも散財してしまう。そのわずかなお金が惜しいのではない。
寄付を妨げているのは、寄付をすることにまつわる偽善らしき雰囲気、良いことなのにそれをする自分が他人から偽善だと思われやしないかという不安だと思う。
そんなややこしい思いが寄付を遠ざけているのだ。
この財布にしたことで寄付をしたいという思いは加速した。自分の目的(小銭を減らしてすっきりしたい)ためにも寄付したい。
コンビニなどに置いてある寄付の箱にやたらと小銭を入れるようになった。万が一小銭入れに入らなければ、もらったそのままお釣りを寄付すればいい。人のためと自分のため。目的と目的ががっしりと握手をしている。これほどのWIN-WINが他にありますでしょうか?
アブラサスの「薄い財布」。
それは「寄付のできる財布」だったのだ!
「薄い財布」の魅力。
もう1回だけ、続きます。
(※アブラサスのデザイナー&CEOの南和繁さんは、手ぶらが大好きで、仕事先で資料など受け取ることがあると、コンビニの宅急便で送ってしまうほど手ぶらが好きらしい。筋金入りのテブラリストだ。自分の欲しいものを作る。これはモノ作りの基本ですよね)
アブラサス 薄い財布 ブッテーロレザーエディション