半径5mからの環境学「資源と暮らしについて髙坂勝さんに聞く」
佐々木典士

池袋のオーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」の店主、髙坂勝さん。長年東京と、千葉県匝瑳市の2拠点生活をしながら、米と大豆の自給、移住者の支援活動などを行われてきました。(現在、バーは2018年3月で譲られて新たなイベントスペースへ。2拠点生活から匝瑳市での活動に専念されるようになりました)緑の党、グリーンズジャパンの初代共同代表まで務められた髙坂さん。都会出身で、大手企業の勤務という経歴から、どのようにして環境にまつわる活動をされるまでに至ったのか、お話をお伺いしました。初出:「むすび」2018年3月号(正食協会)

今月のゲスト 髙坂勝(こうさかまさる)さん

髙坂勝 こうさか・まさる●大手企業を退社後、オーガニックバー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」開店。NPO法人SOSA PROJECTを創設、緑の党、グリーンズジャパン初代共同代表。著書に『減速して自由に生きる: ダウンシフターズ 』(ちくま文庫)『次の時代を、先に生きる。 – まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ –』(ワニブックス)など。

争いには資源が絡んでいる

 

──髙坂さんは、もともと自然に近いところで暮らされていたわけでは全然ないですよね。

ほぼゼロに近いですね。会社員をやっている頃は、土も虫も気持ち悪いし、魚も肉にも触れなかったね。そこから30歳で会社を辞めて、日本各地や世界の各地を旅したんです。9.11があって、アフガニスタンへの侵攻が始まった頃でもあって、戦争が起こるところには、必ず石油やウラン、レアメタルなどの資源があってその利権が絡んでいたりする。石油文明を享受するために、人殺しに加担してしまうことにもなる。そんな観点からも、地下エネルギー資源に頼った暮らしには未来がないなと感じ始めたんだと思います。

環境や未来につなげるため

 

──そして、身近な食についてのお仕事を始められるんですね。

金沢のお店で、料理を学びはじめました。でも多くのお店で化学調味料も使っているし、加工食品も使っていた。これは自分が欲しているものとは違うと思い始めた頃に、自然食料理人の船越康弘さんの講演会に行ったり、マクロビオティックにも出会ったんです。身土不二は、フードマイレージも下げるということだし、環境の問題にもつながっていく。

──そうして14年前にオーガニックバーをオープンされたわけですね。

当時は、オーガニックという言葉もほとんど知られていなくて、店に来たおじさんが「オーガニック? 新しいウイスキーか?」なんて言ってたりしました。当時は、東京のオーガニックのお店は全部廻れるぐらいの数でしたけど、今は本当に増えました。今ではチェーン店でも玄米や五穀米が出され、普通のスーパーでも地元の野菜や有機野菜が売られていたりしますよね。地産地消という言葉も誰でも知っていたり、考えや言葉というものは、本当に少しずつ少しずつ世の中に浸透していくんだなと。そのためにうちにお店もほんの少しは役に立てたのかなと思っています。

DIYで仕上げられた「たまにはTSUKIでも眺めましょ」の店内。環境にまつわるイベントやライブも頻繁に行われていました。

──2009年からは、匝瑳で米や大豆の自給を始められて、そちらにも拠点を持たれる。お家に宿泊させて頂いたこともありますが、トイレの紙を流さずに燃やされていたり、身近なところでいろいろ工夫をされていますよね。

トイレに紙を流さないでおくと分解が早く進むので、汲み取りの回数も少なくてすむんですよ。1年に1回の汲み取りで、15000円ぐらいかかかるところが、2年に1回ですむようになったりする。電気をこまめに消したり、スイッチ付きコンセントを使って待機電力を抑えたりするのもそうですが、単なる節約のためだけではない、エネルギー消費による負の遺産を少しでも減らして未来世代に貴重な資源をつなぐんだ、と思うと、「せこく節約」感覚でなく「世の中に役立っている」感に満たされて心晴れやかになります。

お店で使用される食器や、グラスも洗剤を使わずに洗われて、水だけで汚れが落ちるふきんを使って磨かれています。

オーダーを取る紙は裏紙を使用。メニュー表はダンボールで自作。トイレの電気はスイッチで使うたびに消す。工夫あふれる店内。

オフグリッドに近づける

 

──お店は3月で別の方に引き継がれて東京から離れられたわけですが、これからの暮らしで挑戦してみたいことはありますか?

暮らしのいろいろなものをオフグリッドしていくことです。今まで以上に、大きな流通から買うのではなく、自分が作ったもの、地元で採れたものを食べる。他にもたとえば上下水道にしても、昔の家は井戸水を使ったり、その排水も掘った穴から、土を媒介して浄化されてまた井戸水に戻っていったり、パイプを通して遠くから運ばれてくるんじゃなくて、その敷地内で完結できる知恵があったんですよね。

──そうすると環境負荷の罪悪感なく、生活すること自体が気持ちよくなりそうですね。

電気にしても、家の敷地の太陽光パネルで電気を生み出し、それを電気自動車に充電して走れたら本当にいいなと思います。全部をオフグリッドにするのは無理でも、いかにそこに近づいていけるか、そういう取り組みが楽しいと思うんですよね。

髙坂勝さんよりおすすめの1冊

田中優「環境破壊のメカニズム―地球に暮らす地域の知恵

環境問題の、その裏にある本当の問題、世の中のカラクリがわかる本。そのカラクリを知って、悲観するんじゃなくて、どうしたらそれが少しずつ解決出来るかということも書いてあり、私にとってのバイブルです。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。