車嫌いの私が新型デミオを買った理由  沼畑直樹

 

 

車にまったく興味がなかった私だが、40歳の誕生日を迎えた数日後に新車が人生にやってきた。

あんなに興味がなかったのに、今はこの新型デミオと「車」で頭がいっぱいだ。

 

なぜ車を買ったのか。

表向きには子供の送り迎えという理由はあるけれども、それだけではない。

買った理由。

いろいろあるが、やはり「ミニマリズム」が買わせたのだ。

ふたつのミニマリズムだ。

 

ひとつめ。

それは、「ひとり」「旅」。

ここ最近の心の中は、自由にどこかへ行けるという気分があるが、

これは、10代のころに味わったものに似ている。

 

高校一年生、誕生日を迎えて原付免許を取った。

バイトで貯めたお金で、MTX50というモトクロスバイクを買った。

今ではありえないほど大きな50ccで、マニュアルだった。

 

このバイクを手に入れた自分は、一人、もしくは友人とツーリング三昧の日々を送った。

どこにでも行ける。

自由だ。

 

「ひとりになる」「自分の部屋から遠く離れる」というミニマリズム体験だった。

 

 

 

バイクをやめた理由は、はっきりとしないけれど、

高校のころに一緒に走っていた友人の一人が、バイクで事故死したからかもしれない。

憧れのCBR400で。

 

私はそのころ、東京の小平から、友人のいた神奈川の六角まで何度もMTXで往復していた。

友人と3台のバイクで海に行ったり、山に行ったり、移動に不自由はなかった。

しかし、最終的に沖縄に着くことになる旅は、北海道から徒歩と電車と決めていた。

倉庫に入ったままのバイクは、そのうち処分された。

 

沖縄の久米島と那覇で、25歳ごろまで乗っていた車は、サーフボードを運ぶためのものだった。

日産のバネットというバンを、高い位置から前屈みで運転していた。

夜になると車を出して、島を一周する。

すれ違う車もあとを追う車もない路で、電気を消し、満天の星空を見る。

本当に雲のような天の川が見えた。

 

そして、東京に戻ってからは車を手放して、以来15年間、電車と歩きで過ごしてきた。

車を買うという考え方は一切なかった。

 

 

ミニマリズムと車

 

車を買うという考えに至ったきっかけは、細かくたくさんある。

「車を買え」というメッセージがじわじわと、迫ってきていた。

妻の実家の車でよく旅行には出かけていて、その楽しさは味わっていた。

 

 

そんなとき、ふたつめのミニマリズムがやってきた。

3ヶ月ほど前、仕事である人の車に乗せてもらったときのこと。

その車の車内には、何も置かれてなかった。

買ったときのままの状態だったのだ。

彼は家族がいるから、そんなふうにキープするのは大変なはずだが、意識的に行っているという。

 

それが、ミニマリズムの部屋のように見えた。

少し興奮した。

 

 

やがて、「車を買う」というのを、遊びでシミュレーションするようになった。

買うつもりはないけれど、買うならどの車にするかという話を、夫婦でする。

妻は、新しくなったマツダがいいと言った。

サイトに出ている真っ赤な車たち(CX-5やアクセラ)はとてもかっこよかった。

「もし買ったら、あの人の車のように物を置かない」と夫婦で誓った。

 

 

そのころ、仕事でお付き合いのある女優のAさんが車を買った。

買ったばかりのその車の助手席に乗せてもらった。

「一人になりたいときに、ふらっと出かける」のが楽しいという。

なるほど、オン・ザ・ロードか。

 

自分の居場所はどこなのか。

それは家がまずひとつ。

そして、実は外であり、路上だ。

旅をして、移動をする。歩き、バイクで、車で。

路上。ジャック・ケルアック。

路の人。

路を往く。

 

ずっと若いころから、目指していた場所だ。

 

ひとつめのミニマリズム「ひとり」と、ふたつめの「旅」が結びついて、購入へ一気に動いた。

 

 

 

ドライビングポジションについて、考え方を改めました。

 

車が届いたのは10月23日(2014年)だ。

 

ドライビングポジションだが、私はもともと高い位置から見下ろすような形じゃないと不安を感じる。

昔乗っていたバンはその点、楽だった。

試乗したCX-5も理想的だった。

 

なのに、デミオでは席を一番低くして、頭をしっかり後ろにつけて、スポーツカーのような姿勢で乗っている。

理由は、新型ロードスターがここ数日、好きだからだ。(子供がいるので今の選択肢にはない)

 

今まで考えてもみなかったこの姿勢によって、運転が楽しいと感じた。

それは、「サーフボードを運ぶ道具だった車」から、「ドライブを楽しむ車」にさせてくれた。

 

以前、佐々木さんに車中生活を提案したとき、彼は当然、そのことについて調査済みだった。

ミニマリズムな暮らしが車中生活によって出来るのではないかとクロアチアの旅の最中に話し合ったが、

その場合、大きく背の高い車が理想的だ。

ミニマリズムには大きな空間のある車がいい…。

 

でも今は、新型ロードスターを買ってほしい。

 

高い席から見下ろす、広い車は、「生活道具を運ぶ道具」になってしまうだろう。

室内は物だらけだ。

ロードスターは車中泊は出来なくても、「一人になれる旅」は実現できて、運転が「きっと」楽しい。

 

そして、「ミニマリズムな空間に佇む」ことができる。

ロードスターにはそもそも、物を置くスペースなんてない。

オープンカーにいろいろ置いたり飾ったりする人は、あまりいない。

 

車が、ひとつのシンプルな部屋になる。

そして、ロードスターのスターは「人」という意味。路の人になれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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