Less is future

ハイテク・ミニマリズム
沼畑直樹

長い間、人々は家の中に何があるかで、自分を表現していた。

人を招き、本棚を見せ、持っているレコードやCD、映画などのコンテンツをさりげなく配置した。

1人暮らしをはじめたばかりの若者のワンルームでさえそうだった。

そこに本やCDがないということは、本や音楽に造詣がないことに直結していた。

でも今は、そこに本がなくても、その人の右手で掴まれたスレートの中にデジタル化して存在している。

部屋の中を見ただけでは、その人の興味や趣味、読んできた本や観てきた映画のヒストリーはもうわからないし、判断してはいけない。

本来なら、本で狭い部屋が埋め尽くされるような本好きの人でも、すっきりと片付いた部屋で本を読めるのが今だ。

すべてはテクノロジーのおかげ。ハイテクによって完成する、『ハイテク・ミニマリズム(Hi-tech minimalism)』だ。

エレクトリック・エイジが享受するハイテク・ミニマリズムは、部屋の中だけではない。車でも同じことが起こっている。EVカーの新ブランド、ポールスターが先日発表したコンセプトには、ハイテク・ミニマリズムのアイディアがふんだんに盛り込まれている。

「ポールスター・プリセプト」と呼ばれるコンセプトでは、周囲を把握するためのミラー等を廃して、センサーやカメラを搭載。それによって、従来は後ろの状況を把握するために必要だった窓自体の必要がなくなった。

かわりに、リアゲートの開口部を大きくすることができる。

また、運転中の視覚的ノイズを減らすためには、視線を追う機器を搭載することで、外の前方を見ているときはモニタが暗くなる。

インテリアはリサイクル素材などを使い、従来のプレミアム要素であるレーザーやウッド、クロームを使わない。それでもプレミアムを感じさせるために、デジタル的な技巧(モニタのグラフィックなど)を使う。

今までの車のインテリアは、目に見えるかたちで何かが「ある」ことがプレミアムを生み出す要素だった。「ない」と、プレミアムでも「ない」というのが現状だ。

しかし、車内全体がモニタ化、投影(マッピング)化されていくことで、デザイン要素はデジタルなグラフィックに集約されていく。電気を消した状態では、シンプルな箱しかなくなっていく可能性があるのだ。車外の風景を映し出すために、たとえばドアの内側はシンプルな表面のほうがいい。

同じように、ホテルの室内、カフェの室内、高級レストラン、オフィスと、ハイテク・ミニマリズムによって未来像が変わるものは少なくない。

高級とは何なのか。美しい空間とは何なのか。デジタル化によって生まれたハイテク・ミニマリズムが変える価値観は予測不可能だ。