大人の時間割
沼畑直樹

 

月曜の朝になると、不安になるという。 まわりの人がそう言う。 特にフリーの人に多い。

週末は仕事のことを忘れて好きに過ごして、少しだけ先週の仕事の記憶を消し去る。

消すと楽だからいいのだが、また月曜日に思い出さないといけない。

そして、今やっている仕事量を考えて、憂鬱になるのだ。

 

フリーになると、仕事は上司から割り振りされないので、自分ですべて背負い込まないといけない。

だから、2ヶ月や3ヶ月先の仕事も含めて、今日もしくは一週間でやらなくてはいけない仕事量のように捉えてしまいがちなのだ。

サラリーマンの場合、数ヶ月先の仕事を「たまっている」とは思わない。

ただ数ヶ月先に、いつも通りに仕事があるだけだ。

 

なので、フリーの人もライン(行程)を整理しなくてはならない。

締め切り日から逆算して、月割り、日割りにしていく。

そして、今日やるべき量はどれだけなのかを明確にすべきだ。

そうすれば、不安はだいぶ解消されるはずだ。

この話を「そんなこともできないのか」と思うかもしれないが、経験上、フリーになったほとんどの人ができない。

 

必要なのは、「ラインをミニマルに整理していく」ということだ。

「やるべきことをミニマルにしていく」とも言い換えられる。

 

 

私の時間割

私はサラリーマンの編集部時代も、それをやっていた。

やらないと、無理な仕事量だった。

 

まず、ムック本という商品情報本の編集があり、私は本全体のディレクションから、相手先企業との原稿校正のやりとりを何百件としなくてはならない。

それを3ヶ月ほどで作る。

その原稿は1日3件以上、多いときで15本ほど書くこともある。

 

それとは別に、月刊誌の副編集長として撮影、インタビュー、編集、校正といった仕事がある。

毎月というのは、だんだんキツくなる。

 

その仕事をこなすために、時間割を作った。

小学生みたいだ。

 

細かい時間割は覚えていないが、16時になるとムック本の相手先企業に電話をかけまくるというのだけ覚えている。

それが1時間と決まっているから、必死でかける。

 

17時になると、月刊誌の編集にとりかかる。

全部の電話をかけられなかったとしても、そこで打ち切る。

イギリスを紹介する雑誌なので、取材のためにイギリスに国際電話をかけるのがこの時間だ。

夜じゃないと時間があわない。

そうやって終電まで編集作業をして、1日は終わる。

 

午前中には原稿書いたり、ムックの校正をしたりしていたのだろう。

 

 

クリエイティブに時間の制限はないのか

「時間内にできなければ、あきらめる」

というのは、自分に課したルールで、次の時間に影響を与えず、だらだらと仕事をしないためだ。

人間、どうしても楽しい仕事に時間を割きがちになる。

現に、部下は同じ仕事内容でも、いつも雑誌の編集ばかりやっていた。

だから、嫌な仕事であるムック本がいつも遅れていた。

 

クリエイティブな仕事でよくある「満足いくまで時間をかけて、納得できるまでやる」

こういう考え方は好きじゃない。

 

仕事なんだから、締め切りがある。

予算もある。

 

 

 

予算のいっぱいある仕事で、人と時間をいっぱい使えたり、仕事ではない個人の芸術作品ならいいが、締め切りがある。

 

限られた時間で稼がないといけない。

 

 

あらゆる職場で、その締め切り感覚の強い人と、クリエイティブを主張する人の対立の話を聞く。

 

そんなとき、強力なライン・プロデューサーがいれば…と思う。

自分と会社を律するような、厳しい人にしかそれはできない。

 

自分がいた編集部では、広告の営業マンが無理矢理締め切り直前に仕事を入れようとしてくるが、毅然として断った。

そんな私を面倒に思い、無茶な要求は減ったが、私の担当ではない本では、当然にように営業マンは無理な仕事を入れていた。

どうして厳しい態度を取ったのかと聞かれれば、「ラインを守りたかった」という一点に尽きる。

 

 

今の私は、編集部時代ほど仕事に追われていない。

だから、そういったライン・プロデュースを自分に課する必要性はあまりない。

と思っているのだが、最近、また考え直している。

それは次のポストで書こうと思う。

 

 

 

 

 

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この記事を書いた人

『最小限主義。』、写真集『ジヴェリ』『パールロード』他(Rem York Maash Haas名義)、旅ガイド『スロウリィクロアチア』他

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