時差の不思議
佐々木典士

オランダの新聞の取材をSkypeで受けた。

通訳はニューヨークに住んでいる方にお願いした。

オランダのユトレヒト、ニューヨーク、京都の3者間でのSkype。

 

 

最初、オランダの回線が遅れたり、途切れたりしていたが

通信環境のいい部屋に移動してからは、気になるほどの遅延もなく取材は無事に終了。

 

 

オランダといえば、ワークシェアリングが進んでいたり、安楽死が制度化されていたり、とにかく先進的なイメージのある国。最近では、合理的な農業の輸出が成功していることでたびたび話題になる。そういえば、近くのスーパーでもきれいなオランダ産のミニトマトが売っている。

 

 

オランダのある新聞では最近「燃え尽き症候群」が話題になっていたらしく、ワーク・ライフ・バランスが改善されたオランダでもいまだそういう状況にあるのだと知った。育児休暇の日数もまだまだ少ないそう。遠い憧れの国ではすでに理想が体現しているような感覚をもってしまう。当たり前だが、かの国でも問題は尽きていない。

 

 

オランダと言えば、ディック・ブルーナの絵のようなカラフルなイメージがあるが、最近ではグレーなどのシンプルなインテリアが流行しているそう。ディック・ブルーナの色はカラフルだけど、とても少ない要素で構成されている。元々質素を指向する文化もあるらしく、アメリカ大統領が来たときに、固く粗末なクッキーでもてなしたというエピソードがオランダには残っているそうで、なんだか茶の文化みたいだなと思った。

 

 

ユトレヒトにある、ディック・ブルーナハウス(ミッフィー博物館)はオランダの家族連れと、日本人の観光客がメインの客層らしい。ミッフィーは英語版のときにつけられた名前であり、現地ではナインチェという名前であるというのも初めて知った。ユトレヒトには、ミッフィーの信号機まであるらしい。

 

 

海外から取材されると、逆に向こうの状態を聞きたくて仕方なくなる。そうしてしばし、思いを馳せる。

 

 

インタビューの開始時間は、3カ国が起きているギリギリの時間に設定した。

日本時間   21:30

ニューヨーク 07:30(時差-14時間)

オランダ      13:30(時差-8時間)

 

Skypeのカメラに映るこちらの部屋は暗く、ニューヨークは朝の光。

時差があるのはもちろんわかっているけれど、朝と昼と夜を同時に体験するのはとても不思議な感じがした。

 

 

この日は3カ国とも11月15日で同日だったけど、時間によっては日をまたぐこともある。11月に入ってからもう年末感があるが、日本は一足早く年が明ける。「ゆく年くる年」でも各国の年明けなんて見た記憶がないけど、それもそのはず、まだ年が明けてない国ばかりなのだった。

 

 

同時に生まれたはずの赤ちゃんが、時差によって誕生日が違う場合があるというのもなんとも不思議だ。Skypeで各国の出産を中継していたら、確かに同時に生まれる。でも誕生日は違ったりする。日本で妊娠したお母さんが、ニューヨークで子どもを産んだら誕生日は1日早まったりして……占いの運勢も変わる?

 

 

寝ぼけた頭で考えるとわけがわからなくなってくる。人間に都合のよいようにつけられた日付や時間で考えることに、あまりに慣れてしまっているということだろう。不思議な感覚は残ったまま、みな同じ今を確かに生きている。

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この記事を書いた人

作家/編集者。1979年生まれ。香川県出身。『BOMB!』、『STUDIO VOICE』、写真集&書籍編集者を経てフリーに。ミニマリスト本『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』は25カ国語に翻訳。習慣本『ぼくたちは習慣で、できている。』(ワニブックス刊)は12ヶ国語へ翻訳。